現住建造物等放火被告事件につき、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる放火方法を認定したことが違法とされた事例

判例時報2153号142頁以下に掲載されていました(最高裁第二小法廷平成24年2月29日決定)。
どういった場合に訴因変更が必要になるかについては、従来、抽象的防御説と具体的防御説の対立、という図式で語られてきましたが、最決平成13年4月11日で、基本的に抽象的防御説に立ちつつも訴因の特定に関する識別説(対するのが防御権説)も取り込んだ基準が定立されていて(審判対象画定のため必要な事項が変動する場合は訴因変更を要し、そうでない場合も被告人の防御にとって重要な事項が変動する場合は原則として訴因変更を要するが、審理経過等から被告人に不意打ちを与えず、判決で認定される事実が訴因事実に比べ被告人に不利益でなければ例外的に訴因変更を要しない)、本件では、そのあてはめが問題になったものでした。
元々の訴因が「ガスコンロの点火スイッチを作動させて点火し」としていたものを、2審判決で「何らかの方法により」と認定したことが、決定では、被告人の防御にとって重要な事項の変動と捉えられた上で、攻防が、元々の訴因にある行為が故意に基づき行われたかにつき展開され、検察官は元々の訴因にある行為以外の行為を予備的に主張しておらず、裁判所も元々の訴因にある行為以外について防御の機会を与えていなかったことから、例外に該当せず訴因変更を要したもの、と判断されています(但し、破棄しなければ著しく正義に反するものではない、として上告棄却)。
平成13年判例は、従来の議論の、曖昧でもやもやとしていた部分を整理、明確にしたものと思われますが、それをあてはめるとこうなる、ということを示している点で、参考になる判例、という印象を受けました。