インサイダー事件、訴因変更を勧告…横浜地裁

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130131-OYT1T00795.htm?from=ylist

加藤被告は2011年2〜9月、元SMBC日興証券執行役員・吉岡宏芳被告(51)(金融商品取引法違反で起訴)から入手した川崎市の物流会社など3社の株式公開買い付けの未発表情報を基に、3社の株を計6425万円で買ったとして起訴された。
検察側は、吉岡被告が主体となってインサイダー情報を提供し、加藤被告と共謀して株取引をしたとしているが、朝山裁判長は、加藤被告がインサイダー情報を得て株取引を行ったとし、共謀関係を必要としない訴因への変更を勧告した。

インサイダー取引に関する金融商品取引法(旧証券取引法)の規定は、ちょっと複雑なのですが、おそらく、当初の訴因では、当該被告人が「会社関係者」と共謀している共同正犯、という内容になっていたのでしょう。証拠関係を見ていないのであくまで推測ですが、裁判所の証拠評価として、そういう「共謀」までは認定できず、当該被告人は、会社関係者から重要事実の伝達を受けた者である、ということになったのではないかと思われます。そうすると、共犯であるという当初の訴因とは、事実関係も法律構成も変わってきますから、当初の訴因では有罪にはできない、ということになったのでしょう。
こうした場面での、裁判所の措置については、昔から議論がありますが、そのまま無罪判決を宣告した場合、訴因変更命令、勧告を行わなかったとして、訴訟手続の法令違反(いわゆる審理不尽)に該当する、とされる可能性はあります。判例によれば、基本的には、裁判所がそういった措置を講じる義務があるのは、訴因変更により有罪判決を得られる見込みが証拠上明白である場合、とされていて、訴因変更命令まで行わなくても、検察官に対する勧告、打診でも足りる場合もある、とされています。本件では、そういった従来の判例も検討された上で、裁判所は勧告を行った、ということなのでしょう。一見、不公平な措置のようにも感じられますが、検察官が訴因の構成を間違っていて、証拠に基づけば別の訴因で有罪になることが明らか、ということであれば、それをまったく検察官に検討する機会を与えず無罪にすると、上記のような訴訟手続の法令違反になる可能性もあり、なかなか悩ましいケースである、ということは言えると思います。