遠隔操作事件で公訴棄却要求 「PC特定せず違法」

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-206928-storytopic-1.html

弁護側は申立書で、被告は遠隔操作をしたとされる時間に職場のPCしか使えなかったはずなのに、起訴状ではPCを特定していない、と指摘し「別人の犯行の可能性を検察が認めていることを意味する」と主張。「不特定な訴因は被告に無用な防御の負担を強いており違法だ」と訴えた。

検察の証拠構造については、先日、

【PC遠隔操作事件】なぜ犯行場所を特定できないのか…弁護側が追及
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20130502#1367503403

とコメント(推測)したことがあります。さらに推測すると(まだ全貌がわからないので推測するしかありませんが)、遠隔操作ウイルスの「作成」に重点を置いた立証を図ろうとしているのではないか、犯行の具体的態様(場所、使用PC等)を特定するには至っていないのではないかと思います。作成された遠隔操作ウイルスについて、報道されている「痕跡」と被告人が結びついている、そうである以上、他の人が作成、保管しているはずがない(この「はずがない」というところが重要なポイントですが)遠隔操作ウイルスを使用して犯行(情を知らない第三者を介した業務妨害ハイジャック防止法違反)に及んだのも被告人以外にはあり得ない、という証拠構造を持っている、その一方で、上記のように、犯行の具体的態様は特定されていない、ということではないでしょうか。なお、捜査終結時期が明言できないのは、上記のような証拠構造であるとすれば柱になる「ウイルス作成」について、ウイルス作成罪まで立件対象とするか、まだ捜査機関内部での意思決定ができていない可能性があると思います。
仮に、そうだとすると、この立証構造の弱点は、そもそも遠隔操作ウイルスの作成と被告人との結びつきを立証できるのかという根本的な問題を抱えている上(そこが立証できなければ終わりで無罪です)、そこが立証できたとしても、上記の「はずがない」部分について、第三者の関与の可能性が、合理的な疑いとして生じれば、立証が破たんを来す可能性を内包していることでしょう。検察庁がなかなか証拠開示に応じず立証構造を明らかにしようとしないのも、特に第三者関与の可能性について罪証隠滅の恐れがあると懸念しているからである可能性があると思います。
しかし、それを言い始めたら、ではいつになったら罪証隠滅の恐れがなくなるのか、ということになってしまい、公判での十分な立証の見込みがあるとして既に起訴している事件については、いつまでも曖昧でわかりにくい罪証隠滅の恐れに固執するのではなく、開示すべき証拠はすべて開示して、被告人、弁護人に十分な公判準備、反証の機会を与えるべきでしょう。
訴因の特定、という問題については、大別して、識別説(訴因は他の犯罪事実から識別できる程度に特定されていれば足りるとする)、防御権説(被告人の防御権が十分行使できる程度に特定されなければならないとする)が対立し、判例、刑事実務では前者の識別説が採られていますから、場所やPCが特定されていない、という理由による公訴棄却は困難でしょう。ただ、起訴事件について、既に公判前整理手続が開始されているにもかかわらず、余罪捜査を理由に、証明予定事実の内容は中途半端、証拠開示もまともに行わない、では、被告人、弁護人の防御権が著しく侵害されかねず、裁判所は、訴訟指揮権を適切に行使し、検察官に対しその対応の理由を厳しく釈明して、公判前整理手続を適正、迅速に進めるべきです。