東京地裁、氏名明記を要求 地検拒否、裁判打ち切りも 児童わいせつ被害者匿名で起訴

http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201307120734.html

今朝、起きて朝日新聞を見ると、1面トップでこの記事が出ていて驚きました。今後への影響が大きい、難しい問題ですね。
刑事訴訟法では、256条3項で、起訴状に記載する公訴事実(訴因)について、

公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。

と定め、この特定性については、従来、識別説(他の犯罪と識別できる程度に特定されることを要しそれで足りる)と防御権説(被告人側の防御が可能になる程度にまで特定される必要がある)があって、識別説が通説、実務であるとされてきました。ただ、従来の議論は、証拠上、特定が難しい事情の中でどこまで特定すべきか、を前提に議論されてきた面があり、性犯罪のように、「特定できるが被害者保護のため敢えてしない」ということを念頭に置いた議論ではありませんでした。被害者自体の特定は、公訴事実(訴因)特定上、本質的なものであり、それを敢えてしないのは特定を欠くものである、という考え方は、1つのあり得る考え方、という気はします。
裁判所が、こういった特定を欠くと判断し、検察官により補正されなければ、刑訴法338条により、公訴棄却の判決が出ることになります。なお、朝日新聞の記事でも紹介されていましたが、このような理由による公訴棄却判決は、あくまで手続に不備があることを理由とするものであり、既判力(一事不再理効)はなく、再び起訴することは可能です(ただ、同様の起訴状であれば同様の経過をたどる可能性が高いでしょう)。
起訴状で被害者名を匿名にしても、公判で証人尋問が求められて、弁護人にすら被害者がどこの誰かわからないまま審理を進めることができるのか(現行法制上はかなり難しいと思いますが)、仮にそのような手続が行われた場合にそれが「公正な裁判」と言えるのか等々、いろいろな問題があると思います。刑事訴訟法等の関係法令の見直し、改正を行うべきで、小手先の対応ではカバーできないのではないか、ということを感じます。