児童ポルノを、不特定多数又は多数の者に提供するとともに、不特定又は多数の者に提供する目的で所持した場合の罪数等

最高裁判所第二小法廷平成21年7月7日決定ですが、判例時報2062号160ページ以下に掲載されていました。
児童ポルノを、不特定多数又は多数の者に提供するとともに、不特定又は多数の者に提供する目的で所持した場合の罪数」については併合罪とされ、「児童ポルノであり、かつ、刑法175条のわいせつ物である物を、不特定又は多数の者に販売して提供するとともに、不特定又は多数の者に販売して提供する目的で所持した行為」については、全体として1罪であるとされています。
一般の方々には、なぜ、こういう問題について、わざわざ最高裁が判断するのか、よくわからないと思いますが(わかる必要もないのですが)、併合罪(別個の犯罪)ということになれば、それぞれの犯罪について、起訴(追起訴)という手続を踏む必要があるのに対し、1罪(1つの犯罪)という評価を受ければ、後からある事件を審判の対象にするためには、先に起訴された事件について訴因変更という手続(追起訴ではなく)を踏むことになり、間違えれば誤った手続を踏んだ、ということになるので、刑事手続上は無視できない問題ではあるわけです。
児童ポルノ罪について、最高裁は、刑法上のわいせつ物に関する罪とは異なり、「児童の権利を擁護しようとする同法の立法趣旨に照らし」提供罪、所持罪を併合罪(別罪)とします。その一方で、「児童ポルノであり、かつ、刑法175条のわいせつ物である物」の提供・販売罪と所持罪については1罪としますが、これは、いわゆる「かすがい現象」と言われるもので、典型的な事例は、住居に侵入して複数の者を殺害した場合に、住居侵入・殺人が牽連犯(1罪)になることから、住居侵入が「かすがい」(材木と材木とをつなぎとめるために打ち込む両端の曲がった大釘)のようになって、全体が1罪になるというものですが、わいせつ物に関する販売・所持(1罪)が、一種のかすがいになり、児童ポルノを含む全体が1罪になる、という理屈になります。
従来の罪数理論に照らせば、このような考え方は自然かつ合理的ではないか、という印象を受けます。
この問題について、もっと深く考えてみたい人は、奥村弁護士のブログを読み、罪数の深遠な(?)世界を満喫してください。