【障害者施設襲撃事件】19個の殺人と20数個の殺人未遂は〈1個の犯罪〉として処断される

http://bylines.news.yahoo.co.jp/sonodahisashi/20160819-00061290/

どうしてこのようなことになるのか。
まず、住居侵入とA殺害は、上で説明した牽連犯として〈1個の犯罪〉として処理されます。次に、B殺害も同じように最初の住居侵入とは牽連関係に立ち、〈1個の犯罪〉として処理されます。そして、住居侵入は1個しかありませんから、結局、全体が〈1個〉の犯罪として評価されることになります。なぜなら、もしも家の中で行われたA殺害とB殺害を戸外での犯罪と同じように併合罪として処理するならば、それぞれと一体性が認められる(1個の!)住居侵入を2回処罰することになりますので、牽連犯という形態を認める以上、このように解するほかないのです(牽連犯を廃止すべきであるという意見は強いです)。

刑法上の評価としては、1罪より数罪(複数の犯罪)のほうが、刑が加重され、処断刑(最終的な宣告刑を導く前の、科刑できる範囲)は重くなりますから、住居侵入が絡むことで1罪になってしまうのは、常識的に考えて不合理な面があります。そこは昔から議論されているところです。
検察実務では、そういった不合理を回避するために、いわゆる「かすがい外し」として、上記のようなケースでは、住居侵入罪を起訴対象にしないことがあります。何を起訴し、しないか(審判対象の設定)は検察官の専権事項で、裁判所が、起訴されていない住居侵入罪を審判対象として付け加えることはできない仕組みになっていて(付け加えるように勧告したり命じることはできますが、検察官が応じないのに対象を変更することはできず、住居侵入をつけ加えるように命令することは実務上はありません)、そうした措置を講じることで、不合理な結果になることを回避しています。
こうしたことは、例えば多数の住居侵入窃盗を犯している被告人について、起訴状に、窃盗の事実を一覧表として付けて処理するために住居侵入罪は起訴対象にしない(すると、住居侵入罪の個別の態様を記載する必要があって一覧表での処理が困難になる、刑は窃盗を基準に決められるので支障がない)といったことでも行われることがあります。
犯罪の実体について、検察官による審判対象(訴因、と言われますが)の設定により、実体の全てが審判対象にならないこともあり、それにより不合理な結果、煩雑な処理が回避されて、実務上、妥当な結果が得られるようにされる場合もある、ということですね。