児童ポルノをインターネット・オークションの落札者にあてて外国から郵送した行為が,「不特定の者に提供する目的で《外国から輸出したものといえるとされた事例判例タイムズ1289号 [2009年4月15日号]

http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20090414#1239630713

私は、判例時報2032号160ページ以下に掲載されているものを読みましたが、弁護人であった奥村弁護士の上記エントリーが参考になります。
最高裁(平成20年3月4日最高裁第二小法廷決定)は、

本件輸出行為は、上記DVDの買受人の募集及び決定並びに買受人への送付という不特定の者に販売する一連の行為の一部であるから、被告人において不特定の者に提供する目的で児童ポルノを外国から輸出したものというを妨げない。

と判断し、判例時報のコメントでも、古い判例を持ち出して、

「輸出行為」という実行行為が、児童ポルノを不特定の者に提供するという目的に、いわば導かれて行われていれば、このような目的で輸出したといえるものとの理解を示したものと思われる。

などとしていますが、かなりの「こじつけ」という印象を強く受けました。
そもそも、インターネットオークションへの出品は、バーチャルなものであって、一種の広告掲載でしかなく、最高裁の論法では、例えば、新聞広告で書籍の広告を出した時点から「不特定の者に販売する一連の行為」が始まったということにもなりかねませんが、犯罪の成否を考える上で、そこまで対象を広げるのは相当とは思えません。
落札者が出て、そこから販売、輸出行為が始まると見るのが常識的で、その時点では相手方は特定していますから、それを、「不特定の者に提供する目的」があると認定するのは、やはり、いかにも不自然でしょう。
最高裁の上記のような解釈では、目的犯の目的というものが犯罪の成立を限定する機能を有しているということを没却してしまい、構成要件の人権保障機能というものを著しく損なう恐れすらあるのではないかと思います。
児童ポルノというと、奥村弁護士など極めて限られた人々がマニアックに取り組んでいて、大多数は無関心ということになりがちですが、さりげないところで、こういったかなり問題のある判例が出ている場合もあるということは認識しておくべきでしょう。

追記(平成22年6月8日):

渡邊卓也・判例評論616号(判例時報2072号206頁)