労働基準法32条1項(週単位の時間外労働の規制)違反の罪と同条2項(1日単位の時間外労働の規制)違反の罪との罪数関係(最高裁第三小法廷平成22年12月20日決定)

判例時報2104号145頁以下に掲載されていました。特別刑法、労働刑法の分野ですね。
労働基準法では、労働時間について、

32条
1 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

と定められ、119条で、32条違反について、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金という刑が定められています。1項違反と2項違反の罪数(どちらの犯罪が成立するか、両方成立するかも含め)が問題になったものです。
判例時報のコメントで紹介されているように、古い高裁判例には、改正前の規定に関し(一文で、週単位と1日単位の時間外労働規制が定められていた、とのこと)、当時の基本となる1日単位の時間外労働規制違反の罪が成立する限り、週単位の時間外労働規制違反の罪は方条競合になり別途成立しない、としたものがあったとのことです。
最高裁決定では、

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101224092503.pdf

労働基準法32条1項(週単位の時間外労働の規制)と同条2項(1日単位の時間外労働の規制)とは規制の内容及び趣旨等を異にすることに照らすと,同条1項違反の罪が成立する場合においても,その週内の1日単位の時間外労働の規制違反について同条2項違反の罪が成立し,それぞれの行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであって,両罪は併合罪の関係にあると解するのが相当である。
これと同旨の原判断は正当である。

として、上告を棄却しています。併合罪ということで、両罪が成立すれば、法定刑の上限が懲役9月までになるということですね。
判例時報のコメントでは、決定が言う「規制の内容及び趣旨等を異にすること」「それぞれの行為は社会的見解上別個のものと評価すべき」という点についても、具体的に解説されていて、特に、1個の行為とは言えないという部分については、司法試験受験生等にも参考になるでしょう。
地味な分野ですが、最高裁判例がなかった点について、従来の高裁判例とは異なる判断を示していて、この分野では重要な判例ということになると思います。