日本刑法学会大会(札幌)・1日目午前

札幌の快適な気候の中、北海道大学で開催されている上記大会に来ています。
午前中は、以下の研究報告を聴きました。

1 「過失犯の共同正犯論」(神戸大学・嶋矢貴之氏)
2 「被害者の危険引受けについて」(岡山大学・塩谷毅氏)
3 「量刑体系における量刑事実の選別について」(筑波大学岡上雅美氏)
4 「無罪推定法理の再生ー証拠法則としての機能ー」(神奈川大学・公文孝佳氏)

私は、刑事法を学問として究めようとしているわけではなく、あくまで現行法の解釈・適用に日々関わっている実務家なので、関心にはどうしても偏りがあり、実務との関連性や、実務に使えるかどうかというところで、関心の有無や程度が決まってきてしまいます。
そういった観点から、特に関心を持ったのは、2と3でした。
2では、被害者が危険を引受けたということ(例えば、ふぐの肝を危険と知りながら食べるなど)が、犯罪の成立自体に影響を及ぼす場合があるのではないか、という観点から、いろいろな分析が行われており、被害者の危険認識(意識的な危険引受け)、自己答責能力、積極的態度、といった要件を満たすことにより犯罪不成立とすべき場合もある、といった主張が展開されていました。
実務上、被害者に落ち度(上記のような「危険の引受け」を含め)がある場合は少なくありませんが、犯罪の成否には影響せず、量刑上、適切に考慮するという形で処理されるのが普通です。ただ、確かに、一定の場合には、犯罪の成否自体にまで影響が及ぶ場合もあるかもしれない、という印象は受けました。
私が、実務家として疑問に思ったのは、上記のような「意識的な危険引受け」を過度に問題にした場合、危険を承知しながらも行為者に安全確保を委ねた被害者の信頼、そういった信頼に応えるべきであった行為者の責任、といったものが曖昧になり、被害者保護に欠けることにならないか、ということでしたが、この点は、今後、この問題について書かれた論文等を読む機会があれば、注意して見て行こうと思った次第です。
3については、検察実務・刑事裁判実務上、「量刑事実」(実務上は広く「情状」という場合が多いですが)は非常に重要なものとして検討の対象になっていますが、従来は、あまり研究の対象になるということはなかった、という印象があります。その意味で、従来、実務上、考慮していた諸情状の取り上げ方、考慮の方法などについて、きちんと理論化するなどして、より適正な量刑(起訴・不起訴決定時の評価を含めて)を行う方向へと進んで行くことは、非常に望ましいことではないかと感じました。