あなたは死刑を言い渡せますか〜ドキュメント裁判員法廷〜

http://www.nhk.or.jp/special/onair/081206.html

NHKでは独自に、本格的な模擬裁判を実施した。実際に起きた強盗殺人事件をモデルに、裁判官、検察官、弁護士役をいずれも経験豊富な専門家に依頼し、台本なしで真剣勝負をしてもらった。主役となる裁判員は無作為で選ばれた一般の市民6人。3日間にわたって行った裁判で、彼らは何に悩み、どんな意見を戦わせたのか、そのドキュメントを通じて、裁判員制度で私たちが向きあうことになる現実を浮き彫りにする。

12月6日に放映されたものですが、録画して、まだ見ていたかったため、先ほど、前半の模擬裁判の部分を見ました。後半は座談会のようですが、時間があれば見たいと思っています。
取り上げられた事件は、被害者2名の強盗殺人で、金を取るため事務所に侵入して物色中に、そこの経営者に発見され格闘の上で殺害し、その後、出てきた妻も殺害した、というもので、現金を10万円余り奪って逃げた、という設定でした。争点は、最初に被害者に対する殺意(被告人は公判で否認)と、死刑か無期かという量刑でした。
殺意の点について、番組では捜査段階の自白の有無、その内容について触れられておらず、疑問に思い、関係者に聞いてみたところ、捜査段階の自白はあって評議でも議論はされた、とのことでした。刃物で刺突したのが、被害者の足の付け根あたりで、番組の「評議」では、危険な部位であるということが強調されていましたが、従来の実務では、殺意が認められやすい「身体の枢要部」にあたるかどうか微妙とされているところで、傷の深さはかなり深かったようですが、動機、被害者側の態勢等も踏まえると、殺意の認定については微妙さがつきまとうように思いました。殺意を否定するのであれば、捜査段階での自白調書の信用性(場合によっては任意性も)も問題になり得るでしょう。その辺の総合的な判断が、裁判員を交えた評議で十分深めて議論されているようには感じられず、気になりました。
評議では、最終的には、客観的な危険性と危険性に対する認識が重視されて殺意が認定されていて、間違いとは言えませんが、従来の実務での殺意の認定では、そういった事情だけでなく、動機、計画性などが総合的に検討されてきているのが実情です。なお、認定されたのが確定的殺意なのか未必的殺意なのかが不明であったのも気になりました(裁判員による認定は困難ということかもしれませんが、量刑には影響する事情になるはずです)。
私の印象としては、傷の深さから「刺さった」という弁解は採用できず故意による傷害行為という認定はできるものの、殺意については微妙で、確定的殺意ではなく未必の殺意(死ぬかどうかわからないが死んでも構わない)が認定できるかどうかにとどまる可能性もあるような気がしました。捜査段階の調書が見られない(一視聴者なので)ので、自分としての心証は持てませんでした。
おそらく、職業裁判官のみによる評議であれば、上記のような殺意の微妙さ(殺意を肯定するにしても否定するにしても)や計画性の有無、程度といった事情が、量刑を検討する上でも慎重に検討されるはずで、その点を重視して死刑を回避するという選択もあり得るように思いましたが、番組中の評議で、そういった点が検討された形跡は、見る限りではなく、結論は死刑でした。裁判員が一生懸命検討していることはよくわかりましたが、死刑という究極の刑罰が選択されるにあたり、議論の中で、事件の中身以外の抽象的な人生観や哲学的な話のウェイトが重すぎるように思われ、率直に言って、本当にこれで人が死刑になって問題ないのか、という印象は拭えませんでした。
裁判員が加わった裁判というものが、良くも悪くも、従来の、我々のような実務家が想定するような裁判とはかなり異質な、思いもよらないところで判断が左右されてしまうものになることは間違いないだろう、というのが、見終わった後の感想でした。