「子どもに見せたくない情報に対して出来ること」

3月24日に、

http://www.iajapan.org/hotline/seminar/20050324.html

というセミナーがあり、私もパネリストとして参加予定ですが、参加にあたり、この問題点に関する私の基本的な考え方を一通りまとめておきたいと思います。なお、もし可能であれば、当日、パネルディスカッションの中で、このエントリーに基づいた簡潔なお話もしたいと思っています。
まず、反発を予想しつつ、あえて指摘しておきたいのは、この問題は、日本国憲法で保障されている「表現の自由」や「通信の秘密」との間における緊張関係を避けることができない、ということです。この点については、以前、このブログで

暴力事件で波紋 AV規制 強化すべきか
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050212#1108206797

と述べたことがありますが、「有害」と言っても、わいせつなもの(児童ポルノを含む)、残虐なもの等々、内容に問題があるもののほか、いわゆる出会い系サイトや一部の掲示板など、そこに掲載される情報だけでなく掲載の場や運営方針自体に問題が感じられるものなど、正に様々であり、そういったものを法令により直接的に制約することは、上記のような対立する諸権利等との衝突を生じうるだけでなく、全世界的に多種多様な情報が流通する中で、日本人や日本国内に拠点を有する者が関与する情報に限って法令により規制をかけることは、実効性の点でも非常に疑問があると言わざるを得ません。
この点については、

残虐ゲームソフト、大阪府が規制を検討
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050308#1110262689

でも述べたとおりです。
しかし、発達途上にある青少年の健全育成という観点から、そのような健全育成を阻害すると思われる情報に接しないようにした上で、心身及び判断能力の発達に応じて、そういった制約を徐々に解除して行くというのは、やはり必要なことでしょう。表現の自由の中には、情報受領の自由も含まれますが、発達途上にある青少年が、そのような自由について、必要な制約を受けることはやむをえないことです。
この点について、私が示唆に富むと考えたのが、昨年11月の情報ネットワーク法学会で行われた講演の中の

「インターネット上の青少年に有害な表現の法的規制について」(大阪経済法科大学・永井善之氏)
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041106#1099709147

でした(残念ながら講演自体は聞けず、上記エントリーは配布資料に基づくものです)。
永井氏は、この分野の法的規制について、諸外国(主としてアメリカ、イギリス)の取り組みとして

1 法的規制による方向で進むアメリカ型(但し、表現の自由等との関係で違憲判断が出るなど問題が噴出している)
2 公的な団体による自主規制の方向で進めるイギリス型(但し、問題があっても、「自主」によるものということで責任の所在が曖昧になる等の問題がある)

を紹介の上、今後の日本の進むべき方向として、

1 フィルタリング機能について、保護者が任意に選択・決定しうる形での、プロバイダや端末メーカーへの整備・搭載の法的義務づけ
2 フィルタリング以外の方法による自主的規制
3 国家による、自主的規制に対する各種支援や協力体制の構築

を提案されています。
私は、基本的な考え方としては、このような永井氏の提案のような方向性が望ましいと考えています。表現の自由等を保障しつつ、青少年を有害情報から守るという見地からは、情報の受け手である青少年の側に力点を置きつつ、実効性ある自主的規制を進め、それを国家(地方公共団体も含む)が支援する、という方向が望ましいと考えます。
この点については、最近の報道で、

子どものネット利用を制限する親が増加、米調査
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050319#1111161587

とあり、上記エントリーについて、コメント欄で、アメリカ在住の方から、

うちの子は保育園の頃から学校でコンピューターを使う機会がありました。
公立の学校(うちの場合は保育園と幼稚園)にあるコンピューターでは教育とは関係がないとされるようなサイトにはアクセスできないように設定していあるようです。
地元の図書館などのコンピューターもエロサイトなどは大人でも閲覧できないように設定されているようです。
以前、アタシは適度にエロがあるしりとりをとある掲示板で運営していました。そこなどは日本語で投稿がされていたのに、何かが引っかかったようで、図書館のコンピューターではアクセスを拒否されました。
このように家庭外でも子供にはエログロやチャットができないように配慮されているのだから、肝心の家庭で親が気をつけないということはないのだろうと思います。

アメリカのAOL.comだとParental Controlsという無料のサービスがあり、自分の子供がどのサイトを閲覧したのかメールで親に届けるなどという選択ができるようです。

とのコメントがありましたが、我が国における今後の取り組みを考える上でも参考になります。
ただ、フィルタリング機能に関するプロバイダや端末メーカーへの整備・搭載の法的義務づけやフィルタリング以外の方法による自主的規制を考える場合でも、「法的義務を負わせれば足りる」「自主的規制を行うように公権力が圧力をかける」といった方向へ陥らないよう、十分な注意、配慮が払われるべきでしょう。現状で、フィルタリングソフトには限界があり100パーセントはフィルタリングしきれないことは周知の事実ですし、家庭における教育機能の強化が行われないと、いろいろな方策を講じても、実効性は期待できず、正に絵に描いた餅になりかねません。
この点について、以前、

ネット有害情報選別、都がプロバイダーらに努力義務化
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050125#1106579651

と述べたことがありますが、この東京都条例は、法的義務を課すことを偏重しすぎているのではないかと強く危惧されるところです。こういった問題に対する社会全体の関心を高めて、法的義務の有無に関わらず、プロバイダー等が真剣な取り組みを行うことが求められるような環境を作って行くことにこそ、国や地方公共団体の施策の重点が置かれるべきではないかと思います。
なお、私の考え方は、有害情報の中での違法なもの(犯罪とされているもの)について、捜査機関による取締りを排除するものではありませんし、社会を健全なものとして維持するためには、そういった取締りも必要でしょう。ただ、捜査機関の態勢には自ずと限界があることや、そういった限界の中で、多種多様な違法行為の一部を取り締まることは、捜査機関に恣意的な意図はなくても恣意的な印象を与え、不公平感を生み、今後の違法行為の抑止に結び付かない恐れがあることは、十分認識しておくべきでしょう。