山本五十六、最期の15日間〜歴史に埋もれた「幻の3番機」

 

山本五十六連合艦隊司令長官が前線視察中に米軍機に待ち伏せ攻撃され、同長官らが戦死した、いわゆる海軍甲事件については、過去にいろいろな書籍で書かれて、私も何冊か読んだことがあります。

しかし、私自身は、山本長官らが搭乗していた1番機、宇垣参謀長らが搭乗していた2番機の他に、視察先への差し入れなどを運んで、遅れて飛んでいた3番機がいたことは、読み飛ばしていたのか私が読んだものには明確に書いていなかったのか、意識の中から抜けていました。

本書は、その3番機に搭乗していた搭乗員の中で存命の方へのインタビューも交えながら、海軍甲事件の内実を振り返る内容になっていて、特に新事実はないようですが、従来、書かれてきたものを踏まえ、わかりやすく整理されていて、参考になるものでした。

よく指摘されているように、視察に関する暗号が米軍側に解読されていたことや、護衛機が6機だけであまりにも手薄であったことなど、連合艦隊司令長官戦死という重大な事態が出現したことには複合的な要因があり、それらは本書でも指摘されていますが、読んでいて感じたのは、山本長官が悪化する戦局を悲観し粘り強く生き抜いて戦局を好転させようという積極性に欠けていたのではないか、そうであるからこそ側近の、護衛機を大幅に増やすべきだという進言を頑なに退けたのではないかということが強く感じられました。本書では、戦死直前の山本長官がひどく疲れた様子であったことも紹介されています。

真珠湾攻撃やその後の連戦連勝が、ミッドウェー海戦の大敗で形勢が一変し、米軍との消耗戦に突入して、追い込まれていた状況の中で起きたのが海軍甲事件でした。退潮にある組織における指揮指導の在り方など、海軍甲事件から学ぶべきことは今でも多くあるように思います。戦後、78年目の夏に、読むべき1冊と言えるように感じられました。