海軍乙事件 (文春文庫)

海軍乙事件 (文春文庫)

海軍乙事件 (文春文庫)

海軍甲事件といえば、山本五十六連合艦隊司令長官らがい号作戦の作戦指導のため一式陸攻で移動中に待ち伏せ攻撃され山本長官らが戦死したもの、海軍乙事件といえば、後任の古賀峯一連合艦隊司令長官らが、米軍の空襲を避けるためパラオからダバオへ向け二式大艇で移動中に悪天候で遭難し古賀長官らが死亡し福留参謀長らがゲリラの捕虜となってZ作戦の計画書を奪われたという、ともに戦時中の大事件ですが、本書では両事件を含む戦史関係の短編が収録されていて、今春、天皇皇后両陛下がパラオを訪問されるということで、久しぶりに興味を感じて通読してみました。
海軍甲事件で山本長官を失ったことによる海軍、日本が被ったダメージは大きく、それが、今では米軍に暗号が解読されていたことが明らかになっていて、

山本長官機撃墜、米に暗号筒抜け 古い乱数表を使う
http://www.47news.jp/CN/200809/CN2008092701000565.html

米軍が暗号解読を通じて巡視日程を事前に把握していたことは戦後間もなく明らかにされたが、この暗号が規則に反して古い乱数表で作成されていたことが文書で裏付けられたのは初めて。現場最高指揮官の行動日程という最高機密に属する情報のずさんな取り扱いぶりが、事件後65年を経て浮き彫りになった。

本書では、さすがにそこまでは解明できずに終わっていますが、当時の経過を丹念に追っていて、この衝撃的な事件がいかに起きたかが、ありありと手に取るようにわかります。
また、海軍乙事件で、実際は最高機密のZ作戦の計画書が奪われ米軍の手に渡りその後の日本軍の作戦の手の内が読まれてしまうという重大な失態が犯されていたにもかかわらず、それはなかったはずとされていて、読んでいて、痛恨の極みということを改めて感じました。
最近起きた、ISIS(いわゆるイスラム国)による日本人人質殺害事件を機に、日本にも対外情報機関を、という声が上がっていますが、こうした、戦時中から既に存在していた、情報に弱い国民性のようなものの反省に立って臨まなければ、仏作って魂入れず、既に存在している情報機関のパロディのような存在になりかねない、と通読後に感じました。