「オウム死刑囚父の手記」と国家権力

 

この本が出たことをたまたま知って、通読してみました。

私自身、1995年から1996年にかけて、当時在籍していた東京地検公安部で、本書で取り上げられている井上嘉浩が大臣を務めていたオウム真理教諜報省関係の捜査、取調べを担当し、かなりの諜報省関係の信者を取調べました。その中で井上嘉浩の話はよく出てきて、供述調書に録っていったことが思い出されます。

私自身は井上嘉浩を取調べたことはありませんでしたが、取調べを通じて感じられた、カリスマ性、積極性、行動的、人を惹きつけるもの、といったことは今でも思い出されます。そうであるからこそ、重大事件に関与し、結果として死刑判決が確定、執行されることになったと言えるでしょう。

逮捕後は改心し、捜査にも協力して、家族との関係も大きく改善されて行ったことが本書では紹介されています。それを読んでいると、死刑が執行されたことに残念さが強く感じられますが、一方で、井上嘉浩らが関与した事件の重大性、犠牲になった人々やその遺族を思うと、生きて罪を償えたのかという思いも払拭できないものがあります。

死刑制度の存廃問題を含め、解決することも割り切ることもできないものを、本書の通読後に重く感じました。オウム真理教に関わらなければ、もっと有意義な、より長い人生があった人でしょう。