AV出演強要に適用された淫行勧誘罪にちょっと違和感が

https://news.yahoo.co.jp/byline/sonodahisashi/20180121-00080686/

淫行勧誘罪の条文は次のようになっています。
(淫行勧誘)
刑法第182条 営利の目的で、淫行の常習のない女子を勧誘して姦(かん)淫させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
「営利の目的」とは、財産上の利益を自ら得る目的、あるいは、第三者に得させる目的です。
「淫行」とは、「みだらな性行為」、すなわち性道徳上認められないような種類の性行為のことだと解釈されています(しかし、具体的にどのような行為が「淫行」なのか、よく分かりません)。
「勧誘」とは、その気に(姦淫する気に)させることで、金銭を提供するとか、身分的・社会的な影響力を行使するとか、だましたり、困惑させたりするなど、その意味はかなり広いですが、暴行や脅迫が用いられた場合には、強制性交罪(旧強姦罪)に該当する場合があります。
「姦淫」とは、単に性交と理解する見解もありますが、より狭く、風俗を乱すおそれがあって、道徳的に非難され、刑罰によって防止すべき違法性があるものと理解する見解が多数だと思われます(しかし、これも具体的にどのような行為が対象となっているかは判然としません)。

刑法上も「死文化」していた構成要件が、突如として出現したような形になっていますが、刑法の注釈書を見ると、この犯罪の保護法益については考え方に争いがあり、

・ 品行善良な女子の保護(個人の人格的利益の保護)
・淫行の常習者が増加し風俗が乱れることの防止(社会的法益の保護)

という大別して2つの考え方があり、上記の記事にあるような立法経緯も踏まえると、「淫行の常習者が増加し風俗が乱れることの防止(社会的法益の保護)」と見るのが、現状では多数説でしょう。
そういう考え方に立ちつつ、「姦淫」を「風俗を乱すおそれがあって、道徳的に非難され、刑罰によって防止すべき違法性がある性交」と解すると(法益を社会的法益とすれば、必然的にそうなるでしょう)、AV出演そのもの、全般が、そのような姦淫行為に該当するかということになり、肯定するのはかなり無理があるように思います。あくまでも、「強いられた」AV出演が問題であって、その「強いられた」ということを処罰するのは、社会的法益を保護するための淫行勧誘罪ではなく、強要罪、脅迫罪等の、個人の法益を保護する構成要件ということになるのが筋だと思います。
折しも、

AV淫行勧誘事件 容疑のAV制作会社社長を釈放
https://mainichi.jp/articles/20180124/k00/00m/040/062000c

という事態になっていて、証拠を見ていないので断言はできませんが、淫行勧誘罪適用について、東京地裁令状部の裁判官が疑問を持った可能性もあるように思われます。
今後の捜査の行方に注目する必要があるでしょう。