ゴルフ場の利用詐欺、組長らに逆転無罪 最高裁

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2805V_Y4A320C1CR8000/

ゴルフ場を利用した暴力団員を詐欺罪に問うケースは全国で増えているが、最高裁の判断は同罪の適用に一定の制限を課すもので、各地の裁判に影響を与えそうだ。
同小法廷は判決理由で、2人が2011年に宮崎県内のゴルフ場を利用した際、本名や連絡先を偽りなく記入し、利用料金も払っていたと指摘。暴力団員の利用は禁じられていたものの、当時は受付票に確認欄がなく、暴力団と無関係との誓約書も求めていなかったとして「暴力団関係者と申告せずに利用した行為が人を欺く行為には当たらない」と判断した。

判決も読んでみたのですが、

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140328171606.pdf

最高裁は、本件当時の、当該ゴルフ場における暴力団排除が徹底していたとは言い難い状況や、

本件各ゴルフ場と同様に暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨の立看板等を設置している周辺のゴルフ場において,暴力団関係者の施設利用を許可,黙認する例が多数あり,被告人らも同様の経験をしていたというのであって,本件当時,警察等の指導を受けて行われていた暴力団排除活動が徹底されていたわけではない。

といった事情を具体的に挙示した上で、

上記の事実関係の下において,暴力団関係者であるビジター利用客が,暴力団関係者であることを申告せずに,一般の利用客と同様に,氏名を含む所定事項を偽りなく記入した「ビジター受付表」等をフロント係の従業員に提出して施設利用を申し込む行為自体は,申込者が当該ゴルフ場の施設を通常の方法で利用し,利用後に所定の料金を支払う旨の意思を表すものではあるが,それ以上に申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められない。そうすると,本件における被告人及びDによる本件各ゴルフ場の各施設利用申込み行為は,詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらないというべきである。

としています。ここで重要なのは(重要なので赤字にしておきましたが)「上記の事実関係の下において」ということですね。
詐欺罪が成立するためには、相手方の錯誤に向けられた「欺く行為」が、そういう性格のものとして客観的に存在し、かつ、行為者の主観面でもそのようなものとして認識、認容されている必要があります。本件の「事実関係の下」では、そういう意味での欺く行為にまでは、客観的に見て達しているとは言えない、という最高裁の判断は、本件の具体的な事実関係を前提にすると、うなずけるものがあるように思います。
暴力団排除をうたってはいても、事実上、黙認されプレーができている、少なくともそのような実態があるように見える場合は、単にプレーを申し込んだだけでは、上記のような意味での欺く行為とは言えない、ということは、暴力団排除、詐欺罪の適用を考える上で示唆に富むものがあります。ゴルフ場等の遊技場で、少なくとも、申し込みにあたっては暴力団等の反社会的勢力ではないことをできるだけ明示させ、かつ、実態としてそのような人々のプレーは厳に認めない、という運用をしておかないと、今後もこういった無罪のケースは出てくる可能性があります。この種の行為に詐欺罪が成立することは否定しないものの、安易な、詐欺罪の認定を弛緩させるようなものは認めないという、至極当然でありつつ警鐘を鳴らす判決と言えそうです。

追記:

最高裁第二小法廷平成26年3月28日(刑集68巻3号582頁)・・・無罪(上記の記事)判例時報2244号121頁 宮崎のケース
最高裁第二小法廷平成26年3月28日(刑集68巻3号646頁)・・・有罪 判例時報2244号126頁 長野のケース

有罪となった長野のケースでは、ゴルフクラブ暴力団関係者等の入会を認めず、共犯者が、暴力団等の関係者ではなくそのような者を同伴・紹介することもないという誓約書を提出し、かつ、ゴルフクラブ側が長野県防犯協議会事務局から提供される他の加盟ゴルフ場による暴力団排除情報をデータベース化して予約時、受付時にデータベースとの照合を行うなど暴力団関係者等の排除について厳格な対応を行う中、被告人がフロントで署名しないで済むようにしてプレーに至っていて、無罪となった宮崎のケースとは、かなり事実関係が異なっていること(詐欺罪の成立を基礎づけていること)が、コメント欄で紹介されています。この種のケースに関心がある人にとって、両事件のコメント欄も含め参考になると思います。