http://mainichi.jp/select/today/news/20101029k0000m040013000c.html
決定は5人の裁判官のうち4人の多数意見。桜井龍子裁判官は「管制官の指示と事故に因果関係は認められない」として、2人を無罪とする反対意見を述べた。
小法廷は「907便の機長が航空機衝突防止装置の上昇指示に従わなかったのは、管制官の降下指示を受けていたからだ」と判断し、管制官の誤った指示と事故の因果関係を認めた。そのうえで「2人は誤った指示の危険性を認識できた」と指摘。管制官と装置の指示が相反した場合、どちらに従うべきかルールが不明確だったことが事故の要因の一つと認めたが、「罪の成立は左右しない」とした。
最高裁のサイトにアップされた決定書も一通り読んでみましたが、
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101029111711.pdf
多数意見は、過失及び因果関係の認定のいずれにおいても特に違和感はなく、妥当なものと感じられました。社会通念、常識に照らしても、管制官が便名を言い間違えて降下指示を出す行為の危険性は明らかで、衝突防止装置の指示と管制官の指示のどちらを優先すべきか明確になっていなかったという事情はあっても、そうであるからこそ、そのような行為がいかなる危険な事態を引き起こすかは容易に予見できたと言えるでしょう。
因果関係が問題となるケースで、最近の最高裁は、「行為による危険性の現実化」という観点で判断する傾向がありますが、本件でも、「本件ニアミスは、言い間違いによる本件降下指示の危険性が現実化したものであり、同指示と本件ニアミスとの間には因果関係があるというべきである。」と判断されていて、従来の流れに沿った判断と言えると思います。
こういった事件で管制官のような立場の者の刑事責任が追及されることによる、安全対策への悪影響は、当然、問題であり、今後、検討される必要がありますが、その問題と、刑事責任の有無の問題は、やはり明確に区別して論じられなければならないでしょう。
なお、桜井龍子裁判官の反対意見は、刑事法の過失や因果関係の考え方としては、かなり特異(別の表現で言えば間違い)で、こういう答案を法学部や法科大学院、各種資格試験で書けば、単位も合格点もつかないので、参考にするのであればそういう意味で参考にすべきでしょう。こういった刑事法の素養に欠ける裁判官が、最高裁裁判官として数多くの刑事事件に関与しているというのはいかがなものかという印象を率直に受けました。
追記1(平成23年5月2日):
判例時報2105号141頁(最高裁第一小法廷平成22年10月26日決定)
追記2: