誤振込みされた給付金を返さないと?

誤振込みされた給付金を返さないと?(園田寿) - 個人 - Yahoo!ニュース

 このように学説は分かれていますが、第1説が多数説かと思われます。そこで、裁判所の判断が待たれましたが、最高裁は、平成15年3月12日に、誤振込みの事実を知りながら預金を窓口で引き出した行為について、預金債権は有効だとしながらも詐欺罪の成立を認めました。その理由は、銀行は誤振込みを正す組戻しを行なうことができたのに、受取人がその事実を告げずに預金を引き出す行為は、銀行の利益を損なうものであり、銀行との関係で詐欺行為にあたるというものでした(上記、第1説と同じ考え方)。

  なお、この立場からは、ネットバンキングで資金移動を行なった場合には、電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)が成立することになります。

最近、ネットのニュースを見ていると、この話題でもちきりで、もうお腹いっぱいという感じがありますが、事実関係がよくわからないのでコメントしにくいものの、上記の最決平成15年3月12日を見ると、

 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/004/050004_hanrei.pdf

誤った振込みがあることを知った受取人が,その情を秘して預金の払戻しを請求することは,詐欺罪の 欺罔行為に当たり,また,誤った振込みの有無に関する錯誤は同罪の錯誤に当たる というべきであるから,錯誤に陥った銀行窓口係員から受取人が預金の払戻しを受 けた場合には,詐欺罪が成立する。 前記の事実関係によれば,被告人は,自己の預金口座に誤った振込みがあったこ とを知りながら,これを銀行窓口係員に告げることなく預金の払戻しを請求し,同 係員から,直ちに現金の交付を受けたことが認められるのであるから,被告人に詐 欺罪が成立することは明らかであり,これと同旨の見解の下に詐欺罪の成立を認め た原判決の判断は,正当である。

とあって、銀行が、預金口座に誤った振込があったことを知らず、そこで騙して錯誤に基づいた払戻を受けたことが前提になっています。

ただ、山口の件の報道を見ると、銀行側はかなり早くに、誤振込の事実を知っていて、特に口座凍結といった措置は講じられず、その状態で、次々と口座内のお金が移動させられていたのではないかと思われるものがあります。

仮に、そうであった場合に、銀行側に錯誤があるとは言えないのではないか、詐欺になるのかという、素朴な疑問は残ります。

この問題は、電子計算機使用詐欺であっても、詐欺という構成である以上は共通するものがあります。

事実関係がより明確になる中で、犯罪の成否、成立するとしてどういう犯罪になるのか、より深めた議論が必要でしょう。