「24時間以内に死んでくれ」と迫ったら相手が自殺――「殺人罪」になる可能性は?

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140806-00001872-bengocom-soci

「24時間以内に首でもつって死んでくれ」と迫った相手が、本当に首をつって自殺した場合、死亡についての法的責任は問われるのだろうか? 刑事事件にくわしい落合洋司弁護士に聞いた。

「まず考えられるのは、自殺教唆罪(刑法202条)です。この罪で有罪になれば、6カ月以上7年以下の懲役刑または禁錮刑に処せられる可能性があります」

「考えられるのは、より刑が重い、『間接正犯』としての殺人罪(刑法199条)です。殺人罪の法定刑は、死刑か無期懲役、または5年以上の懲役であり、自殺教唆罪よりも格段に重くなります」

「間接正犯というのは、自らが直接手を下す直接正犯とは異なり、他人を道具として利用する・・・そうであるがゆえに、正犯としての責任を問われる形態です」

「報道をもとに考えると、本件では、被害者に対して、長期間にわたり執拗かつ強度な暴行が加えられた上で、精根尽き果てた被害者に自殺が強制された可能性があります。
もし、裁判でそのような認定が成されれば、被害者自身を利用した間接正犯として殺人罪が認定されることもあり得ます」

「被告人を極度に畏怖して服従していた被害者に対し、暴行・脅迫を加えて自殺を執拗に迫り、被害者に他の行為を選択する余地がない精神状態の下で、運転する車を岸壁上から海中に転落させたというケースがあります。
最高裁判所はこのケースで、殺人未遂罪を認定しました(死亡には至らなかったため)」

「本件が自殺教唆罪にとどまるか、殺人罪まで成立するかは、『被害者の意思が強度に抑圧され、他の行為を選択する余地がない程度にまで達していたかどうか』によるでしょう」

上記の最高裁判例は、平成16年1月20日決定

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/055/050055_hanrei.pdf

です。
最高裁は、

上記認定事実によれば,被告人は,事故を装い被害者を自殺させて多額の保険金を取得する目的で,自殺させる方法を考案し,それに使用する車等を準備した上,被告人を極度に畏怖して服従していた被害者に対し,犯行前日に,漁港の現場で,暴行,脅迫を交えつつ,直ちに車ごと海中に転落して自殺することを執ように要求し,猶予を哀願する被害者に翌日に実行することを確約させるなどし,本件犯行当時,被害者をして,被告人の命令に応じて車ごと海中に飛び込む以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせていたものということができる。
被告人は,以上のような精神状態に陥っていた被害者に対して,本件当日,漁港の岸壁上から車ごと海中に転落するように命じ,被害者をして,自らを死亡させる現実的危険性の高い行為に及ばせたものであるから,被害者に命令して車ごと海に転落させた被告人の行為は,殺人罪の実行行為に当たるというべきである。
また,前記2(5)のとおり,被害者には被告人の命令に応じて自殺する気持ちはなかったものであって,この点は被告人の予期したところに反していたが,被害者に対し死亡の現実的危険性の高い行為を強いたこと自体については,被告人において何ら認識に欠けるところはなかったのであるから,上記の点は,被告人につき殺人罪の故意を否定すべき事情にはならないというべきである。
したがって,本件が殺人未遂罪に当たるとした原判決の結論は,正当である。

という判断を示していますが、こういった、被害者自身を利用する殺人の間接正犯の形態で、どのレベルにまで達すれば、自殺教唆にとどまらず殺人罪の実行行為性(死亡の現実的危険性の高い行為)を有するに至るのか、正犯としての責任を負う根拠は何か、といったことを考える上で、非常に重要な判例です。
上記の件で亡くなった方はお気の毒としか言いようがありませんが、この事件について、殺人罪の成否という観点でコメントしてみたものでした。