宝塚線脱線事故、JR西・前社長に無罪判決 神戸地裁

http://www.asahi.com/national/update/0111/OSK201201110004.html

判決は「前社長は現場カーブの危険性やATS整備の必要性について周囲から進言を受けておらず、JR西には半径304メートル以下の急カーブが多数あった」と認定したうえで、ダイヤ改定も電車の運行に余裕を与えるものだったと指摘。前社長は96年12月の函館線の貨物列車脱線事故などから急カーブでの事故を予測できた、とした検察側の主張を退けた。
さらに「当時は脱線の恐れがあるとしてカーブにATSを整備していた鉄道会社は認められない」とし、前社長が多数のカーブの中から現場カーブを個別に指定してATSを整備しなかったことについても「大規模鉄道事業者の安全対策責任者に求められる行動基準を逸脱したとはいえない」と述べた。

判決前に、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20120109#1326096522

とコメントして、無罪と予想していましたが、結論、理由とも、私の予想通りでした。
裁判所は、事故が起きたカーブの危険性や自動列車停止装置(ATS)設置により事故が回避できたことは明確に肯定しつつ、事故当時の鉄道事業者による安全対策の水準や被告人が持っていた危険性の認識に照らし、過失を否定して、無罪という結論に至っています。業務上過失致死傷罪の成否は、具体的な予見可能性があって初めて具体的な結果回避義務が生じてくるという枠組みの中で決まるものですが、神戸地検が、函館線事故を一つのエピソードとして持ち出すなどして、一定の危惧感があればそれに応じた結果回避義務が生じると主張したものの認めなかったのは、そういった従来の過失理論に照らすとやむを得ない面はあると思います。
ただ、昨日の神戸新聞に掲載されたコメントでも指摘しましたが、神戸地裁は、JR西日本の安全対策が不十分であったことも明確に指摘しており、現行の刑法上、この種の事故で個人責任だけを問う限界を露呈したとも評価できるでしょう。従来、問われてこなかった企業体に対する刑事責任や処罰の在り方を検討すべき時期に来ていることを、改めて示唆する判決であったのではないかと思います。
判決の内容を見ると、従来の過失に対する考え方を手堅く適用し、証拠評価に特段の問題もないようですから、控訴は難しそうでですが、ご遺族や関係者の強い希望もあるようですから、神戸地検としては控訴して大阪高裁の判断を仰ぐということになるでしょう。