【裁判員 判決】「あなたならどのような判決を選ぶか」 東京・隣人殺害 

http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090807/trl0908072122013-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090807/trl0908072122013-n2.htm

全国初の裁判員裁判となった東京都足立区の隣人女性殺害事件。「あなたが裁判員ならどのような判決を選ぶか」について読者の意見を募ったところ、死刑から猶予刑までさまざまな意見をいただいた。実際に裁判員として審理に立ち会うのに比べればごく限られた情報を、しかも文字を読むという手段でしか得られない状態で判断してもらったことを前提に紹介する。
今回の事件では「近隣の女性をナイフで刺殺した」という起訴事実に争いがなく、量刑が問題となった。
ここで言い渡すことが可能な刑の範囲について確認すると、殺人罪の法定刑は「死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役」。ただ減刑できるため、執行猶予をつけることも可能だ。検察側は「懲役16年」、遺族は「最低でも懲役20年」、そして弁護側は「検察側の求刑は不当に重い」と主張しているが、これらは判決を決める際の参考材料に過ぎず、検察側の求刑を上回る判決が言い渡されることもある。

懲役16年の求刑に対し、判決結果が懲役15年ということで、「重かった」という評価が多いようですね。報道されている事実関係を踏まえた上での私の感覚で言うと、求刑としては懲役14年から15年程度、判決としては懲役12年から13年程度ではないかと思われ、東京地検としては、裁判員制度の中で量刑を重めに誘導する目的がおそらくあって、求刑を1、2年程度重くし、立証が奏功して、判決も重めに出たな、という印象を受けています。
日本の刑罰法令の特徴は、法定刑に幅があることで、例えば殺人罪の場合、上記の記事にもあるように、上限は死刑、下限は懲役5年で、酌量減軽することで、下限は懲役2年6月まで下がります(法律上の減刑事由があればさらに下限は下がります)。
そのようなかなりの幅の中で、裁判所は最終的に宣告する刑を決めなければなりませんが、従来の実務では、量刑事情をできるだけ類型化し、同種事件における量刑事情や宣告刑と比較対照しつつ、適正な刑を探り決定して宣告する、ということが行われてきました。そういった過程を経る中で、できるだけ恣意性を排除し、不公平がないことが目指されてきたもので、マスコミは、相場、相場と言って批判していますが、このような量刑決定過程にも、それなりに合理性はあったと言えるでしょう。
そこに、裁判員制度というものが開始されたことで、量刑というものがどのように変容して行くかが注目されているわけですが、上記の記事にあるような、人による捉え方、考え方の違いがストレートに反映されれば、マスコミがもてはやしているような「一般人の感覚」が生かされることにはなりますが、裁判官も入っているとはいえ、選ばれた裁判員により、大きな幅がある法定刑の中で、刑が思い切り重くもなれば思い切り軽くもなって、当たり外れのような事態が生じてくる可能性は高いでしょう。
そのような不均衡を、高裁で以下に是正するかということも、1審が裁判員も入った上での判断であるだけに悩ましいものがあります。
事実認定以上に、量刑の問題、特に、裁判員により区々な判断がなされ耐え難い不均衡が生じ、それを高裁としても是正しきれない、といったあたりが、今後、裁判員制度が見直される場合、特に大きく問題視されることになるかもしれません。