北九州の殺人、組幹部に無罪 「撃った」伝聞証拠認めず

http://www.asahi.com/national/update/0512/SEB200605120002.html

B被告については、A被告の知人による「A被告から『Bがとどめを撃った』と聞いた」との証言を柱に立証を試みた。しかし裁判所は、この証言を刑事訴訟法が原則として認めない「伝聞証拠」だとして証拠排除を決定。昨年9月には、殺人事件では異例の保釈を認めていた。
判決でも、野島裁判長は「A被告の話が真実と立証されなければ、知人の証言には証拠能力がない。『他の証拠と合わせて総合的に判断するべきだ』との検察官の主張は認められず、状況証拠として価値はない」と述べた。

被告人名は仮名としておきました。
問題となる刑事訴訟法の条文は、

第321条
1 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。
(1号、2号略)
3.前2号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、且つ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。但し、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。
(2項以下略)
第324条 
1 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人の供述をその内容とするものについては、第322条の規定を準用する。
2 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人以外の者の供述をその内容とするものについては、第321条第1項第3号の規定を準用する。

です。
伝聞法則というのは、「事実認定を行う裁判所の面前における反対尋問を経ない供述証拠」(伝聞証拠)の証拠能力を原則として否定するもので、刑事訴訟法上、例外も認められており、上記の条文は、その例外に関するものです。
典型的な伝聞証拠は、本件で問題となったような「又聞き」です。
本件に即して言うと、「A被告人の知人の証言」(おそらく法廷で証言したものと思われます)が、324条2項の「被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述」で、その中で出てくる「A被告から、Bがとどめを撃った、と聞いた」という証言が、同項の「被告人以外の者の供述をその内容とするもの」になります(A供述を、別の被告人であるBに対する証拠として使うので)。
本件では、A被告人が、法廷で、とどめ云々について否定したと思われ、そうすると、321条1項3号の「供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず」という、「供述不能」の要件を満たさないことになり、伝聞証拠として証拠能力が否定されることになったものと思われます。
おそらく、検察官は、「A被告が、Bがとどめを撃った、と言っていたこと」そのものを要証事実として、伝聞法則が適用されない、としたかったものと推測されますが、裁判所の容れるところにはならなかったのでしょう。
知人の証言が、Bの自白を内容とするものであったなら、324条1項により、

第322条
1 被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第319条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。
2 被告人の公判準備又は公判期日における供述を録取した書面は、その供述が任意にされたものであると認めるときに限り、これを証拠とすることができる。

の「任意性」が認められれば、証拠能力が認められる余地がありました。
微妙な面もありますが、伝聞法則を考える上では参考になる事例ではないかと思いました。