ロースクールの講義開始にあたって

先週から、私が担当する講義(「現代刑事法」)が始まり、既に2回にわたって講義を行った。
刑事法(実体法及び訴訟法)全般にわたる事例問題及び解説付きの書籍を使用し、担当者からの発表に、他の受講生からの発言や私からの説明等も織り交ぜながら進めるというスタイルをとっている。事例問題の中で、いろいろな犯罪(多種多様とまでは行かないが)が出てくるので、最新版の犯罪白書にも適宜言及しながら、現在の犯罪現象というものに、できるだけ通じてもらいたいという狙いもある。講師は意欲的であり、受講者も、熱意をもって臨んでもらえば相応の成果は期待できると思っている。
振り返ってみて、私自身の経験に照らすと、一通り基本書を読んでみた、という段階で役立ったのは、事例問題について検討する、というスタイルの講義であったと思う。早稲田大学の法職課程教室で、元検事の近藤仁一先生(当時は辰巳法律研究所の看板講師)の刑法各論の講義を聴いたが、予め、いろいろな具体的事例を記載したレジュメが配布されて、それに沿う形で講義が進められていて、基本書等で抽象的にしか捉えていなかった論点が、具体的な問題の中でどのように位置づけられるか、といったことが理解できて、非常に勉強になった記憶がある。確か、同教室で、半田正夫先生(言わずと知れた著作権法の権威であるが、当時の私にとっては「民法の先生」であった)が、やはり具体的な事例について解説するというスタイルの講義を持たれていて、これも非常に参考になったという記憶も残っている。
新司法試験では、従来の司法試験以上に、具体的な事例に対する分析力、論点抽出力、机上の空論に終わらない実務的な問題解決能力といったものが求められているのではないかと思う。漫然と基本書を読んだり他人の話を聞いているだけでは、そういった能力はなかなか身に付かないものなので、ある程度勉強した人には、できるだけ具体的な事例に接し、自分の頭で考えて結論を出すという訓練を積んでもらいたいものである。