大量メール、保護観察所が把握せず 逗子ストーカー殺人

http://digital.asahi.com/articles/TKY201211150980.html

小堤容疑者は元交際相手の三好梨絵さん(33)に「刺し殺す」などと書いたメールを送ったとして、昨年9月に懲役1年執行猶予3年の有罪判決を受け、保護観察処分になった。
東京保護観察所によると、観察所は翌月、「被害者に一切接触しない」という「特別遵守(じゅんしゅ)事項」を小堤容疑者に課し、保護観察官が「接触には訪問や電話、メールも含む。違反すれば執行猶予が取り消される可能性がある」と伝えた。
その後、保護司はほぼ月2回、面談を続けてきた。観察所への報告では、脅迫やストーカー行為をうかがわせる態度は見られず、面談を始めて2〜3カ月で明るくなり「早く仕事を見つけないといけない」などと話した、とされていた。
しかし実際には、今年3〜4月、小堤容疑者は三好さんに1千通超のメールを送っていた。

法務省によると、保護観察の対象者が遵守事項に違反した場合、対象者の家族や警察から情報が寄せられる例が多い。しかし正式な通報制度はなく、現場の判断に任されているという。観察所が遵守事項の内容を警察や検察に伝える制度もなく、今回も、警察や検察に伝えていなかった。

保護観察付き執行猶予者については、一般遵守事項と特別遵守事項が定められ、遵守事項に違反した場合には、保護観察所長の検察官に対する申出に基づいて検察官が執行猶予取消を裁判所に請求する、という制度になっています。
本件で、私は、執行猶予に保護観察が付せられていなかったのか、裁判所もうかつなことをしたものだ、と思っていたのですが、記事を読み、そうではなく、保護観察は付されていたことを知りました。そうであれば、なおさら、何とかならなかったものかと残念ですね。
現行の制度では、遵守事項を、執行猶予が付された有罪判決の元になった事件の被害者、関係者へ伝える、ということにはなっていないはずで、被害者が知らなかった可能性は高いでしょう。知っていたとしても、自らへのメール送信が遵守事項違反に該当すると、保護司や保護観察所へ通報する、というところまで思いが及ばなかったのは、一般人としてはやむを得なかったのではないかと思います。どこまで弁護士に相談していたかは不明ですが、刑事法に明るい弁護士であれば、遵守事項違反、ということを念頭に置いて活動(保護観察所への通報など)したはずだと思いますが、どのような弁護士でもそうしたか、と言われると、人によっただろう、と言うしかありません(私なら、そこはすぐに気付いたと思いますが)。
本件で、保護観察所への通報が、最も可能な立場にあったのは警察であると思いますが(検察庁は、執行猶予判決後、関与していたようには見えないため)、今後は、保護観察付き執行猶予者に関する問題行為について相談があったら、刑罰法令への該当が断定できなくても、保護観察所への通報を念のため行なっておく、ということを、警察庁からの通達等で明確にしておくべきではないかと思います。
制度の狭間で、若く、まだこれからだった被害者の尊い生命が失われてしまったこと、取り返しがつかない事態が生じてしまったことについて、単に警察等を叩くだけでなく、今後、こうした不幸な、悲しい事件が、できるだけ起きないよう、法改正、制度改革へと結びつけて行かなければならないでしょう。