逗子ストーカー殺人 結婚後の名字・居住市 県警、読み上げ計2回

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121111-00000062-san-soci

しかし、同署が昨年6月、脅迫容疑で小堤容疑者を逮捕する際、逮捕状に記載された三好さんの結婚後の名字や転居先の市名などを読み上げた。さらに、警察署内で小堤容疑者に弁解の機会を与えた際にも、同様の内容を告げたという。

刑事訴訟法上、逮捕状の記載要件について、200条1項で、

逮捕状には、被疑者の氏名及び住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所、有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

とされ、201条1項で

逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない。

203条1項で

司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。

とされています。記事では、逮捕の際に被疑事実の要旨を読み上げたように報じられていますが、法律で要請されているのは「示す」ことで、読み上げることまでは求められていません。
ここで、まず注目すべきは、逮捕状(勾留状も同様ですが)には、「被疑事実」そのものではなく「被疑事実の要旨」の記載が求められていることです。これは、おそらく、捜査中では被疑事実を厳密に特定することが困難である場合があることや、捜査中で秘匿すべき事項もあり得ることから、逮捕状の正当性を根拠づけるような「要旨」の限度で明確にされていることを要求し、その限度で足りるとしたものと考えられます。逮捕後の弁解録取の際に被疑者に告げることが求められているのも「犯罪事実の要旨」です(上記の引用条文で赤字にしておきました)。
そうすると、本件の場合、被疑事実の要旨に、被害者の現在の(婚姻後の)フルネームを記載せず旧姓で記載したり(それでも、被害者が誰かは十分特定されます)、現住所をうかがわせるような記載をせず「神奈川県内の」程度にとどめておく(メールによる犯行でそれでも被疑事実は十分特定されるでしょう)、ということも、十分な可能であったと考えられます。令状裁判官から、その点について質問があったら、本件の特殊事情を説明すれば、令状裁判官の理解も得られたはずです。
その関係でさらに言うと、被害者が逗子市在住であったことから逗子警察署が被害届を受けて捜査をしていたものと思われますが(それが通常の手順です)、所轄警察がこうして動くことで、ストーカー側には、その管内に被害者が住んでいる、ということを推測させることになります。被害者に、現住所を知られたくないという強い希望がある以上、被害届を受理したり捜査を行う警察署を別にするなど、捜査の進め方についても細心の注意が必要であったのではないかと思います。
柔道や剣道が得意で身体が元気、だけでは、警察官は務まらない、ということでしょう。