遠隔操作事件に関する、コメント付き記事

この件については、被疑者逮捕後、取材をよく受けているので、中には記事でコメントとして紹介されているものもあります。

PC遠隔操作:匿名化ソフト 捜査の限界も浮き彫りに
http://mainichi.jp/select/news/20130213k0000e040179000c.html

遠隔操作事件は容疑者逮捕で大きく進展したが、匿名化ソフト「Tor(トーア)」などに対するサイバー捜査の限界も浮き彫りにした。警察当局は専門捜査員の増員などの対策に乗り出すが、ネットの専門家や法律家らからは「抜本的な解決策はない」との声も聞こえる。対策を進めるには国内だけでは限界があり、他国と連携を求める意見も出ている。

元検事でネット犯罪に詳しい落合洋司弁護士も、Torについて「より進んだ技術の情報交換など、世界的にサイバー犯罪への協力態勢を緊密にしていくべきだ」と主張する。

今後のサイバー犯罪対策は、日常的に起きる、警察が適切に動けば解決へと至りやすい、それほど難易度が高くない事件については、そういった事件に対処できる必要十分な知識、経験を持った捜査員を厚めに配置して迅速に対応できる態勢を整えるべきであり、その一方で、難易度が高い、あるいは特殊性のある事件(遠隔操作事件のような)については、よりスペシャルなユニットが、外部の専門家や海外の捜査機関とも連携しつつ動ける、という、両面作戦で臨むべきでしょう。どちらか一方が疎かになっても良くないと思います。後者のため、「サイバー犯罪」ということを一つの軸として、国際的な捜査共助体制を早急に構築するということも実現へ向け真剣に検討される必要があると思います。そうした取り組みが、9・11テロのような事件を未然に防止することにもつながるはずです。

遠隔操作事件「プライバシーを過度に暴き立てる報道は問題」 落合洋司弁護士の見解
http://news.mynavi.jp/c_cobs/news/bengo4/2013/02/post-132.html

「真犯人が匿名化ソフトを利用するなどしていたことで捜査の難航が伝えられていた中、今年1月になり真犯人が大きく動きました。最後のメールにより判明した猫の首輪装着の記録媒体中のデータや、それに近付く人物の防犯カメラ画像が、大きな手がかりになって、被疑者逮捕に至った可能性が高いでしょう。
今後の捜査では、状況証拠だけでなく、被疑者と犯行との間の直接的な結びつきを立証できる、確たる証拠が得られるかが焦点になるはずです」

「逮捕された被疑者が真犯人かどうかは、まだ断定できる状況にはありません。あくまで、逮捕状が出る程度の『疑わしさ』が存在したということであり、そこは冷静に見る必要があるでしょう。決めつけは禁物です」

犯罪報道の在り方、実名報道の可否については、様々な議論、意見があります。実名報道により捜査、公判の在り方が検証できる側面もあり、実名報道を全否定するのもどうかと思います。
ただ、今回の事件でもそうですが、被疑者を実名で報道しても、あくまで『疑いを受けている』存在ですから、『犯人』であると決めつけすぎ、プライバシーを過度に暴き立てる報道の在り方には問題があります。慎重さ、節度がより強く求められると思います」

こちらの記事では、今後の捜査のポイントとともに、犯罪報道の在り方についても、若干の苦言を呈しつつコメントしています。
日本における犯罪捜査というものは、何もないところから始まり、徐々に証拠が積み重ねられ、十分に公判が維持でき有罪判決が獲得できる見込みがあれば起訴となる場合もある一方、立証に難があると判断されて不起訴に鳴る事件も少なからずあります。一連の遠隔操作事件でも、「誤認逮捕」が問題になり、もちろん、そういったことはあってはならないことですが、一定の疑いに基づいて人を逮捕、勾留して捜査を行い起訴、不起訴を決定する、という制度である以上、逮捕イコール起訴、有罪ではなく、そこは、特に捜査段階においては、報道でも過剰な犯人視ということは慎重に避けつつ、疑いが抱かれているということの中身について、警察の見込み、目論見とは一定の距離を置いた報道が行われるべきでしょう。そうしないと、犯人ではありませんでした、立証できるだけの証拠がありませんでした、ということになった場合に、取り返しがつかない報道被害を残すことになってしまいます。
最近、社会の注目を集めるような事件、事故が起きると、マスコミが一斉に群がり集まってきて「メディアスクラム」状態になりがちですが、報道の在り方、人権との緊張関係や行き過ぎた場合に深刻な事態を引き起こす危険性、といったことについても、きちんと目が向けられる必要があると思います。上記の記事ではそういったことについてコメントしています。