http://digital.asahi.com/articles/TKY201204200618.html
この判決の中で第二小法廷は、一審判決後に、市長とともに責任を問われた外郭団体に対する不当利得の返還請求権を放棄した神戸市議会の「帳消し」議決の是非を検討した。
議決の有効性を判断するために考慮すべき要素として、問題となった公金支出の性質や内容、原因、経過▽議決の趣旨や経緯▽放棄した場合の影響▽訴訟が続行中かどうか――といった点を列挙。それらを総合的に考慮して、議会の裁量権の逸脱・乱用が認められれば議決は違法で無効となるとする判断の枠組みを示した。
それを踏まえ、今回の議決については、補助金が医療や福祉などのサービスとして住民に還元されていた事情などを考慮して「裁量権の乱用はなかった」と判断した。退官した古田佑紀裁判官を含む4人の裁判官全員一致の意見。
最高裁のサイトで、
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120420165828.pdf
が出ていて、その中で、下記のように述べられています(ポイント部分を赤字にしてみました)
地方自治法96条1項10号は,普通地方公共団体の議会の議決事項として,「法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか,権利を放棄すること」を定め,この「特別の定め」の例としては,普通地方公共団体の長はその債権に係る債務者が無資力又はこれに近い状態等にあるときはその議会の議決を経ることなくその債権の放棄としての債務の免除をすることができる旨の同法240条3項,地方自治法施行令171条の7の規定等がある。他方,普通地方公共団体の議会の議決を経た上でその長が債権の放棄をする場合におけるその放棄の実体的要件については,同法その他の法令においてこれを制限する規定は存しない。
したがって,地方自治法においては,普通地方公共団体がその債権の放棄をするに当たって,その議会の議決及び長の執行行為(条例による場合には,その公布)という手続的要件を満たしている限り,その適否の実体的判断については,住民による直接の選挙を通じて選出された議員により構成される普通地方公共団体の議決機関である議会の裁量権に基本的に委ねられているものというべきである。もっとも,同法において,普通地方公共団体の執行機関又は職員による公金の支出等の財務会計行為又は怠る事実に係る違法事由の有無及びその是正の要否等につき住民の関与する裁判手続による審査等を目的として住民訴訟制度が設けられているところ,住民訴訟の対象とされている損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を放棄する旨の議決がされた場合についてみると,このような請求権が認められる場合は様々であり,個々の事案ごとに,当該請求権の発生原因である財務会計行為等の性質,内容,原因,経緯及び影響,当該議決の趣旨及び経緯,当該請求権の放棄又は行使の影響,住民訴訟の係属の有無及び経緯,事後の状況その他の諸般の事情を総合考慮して,これを放棄することが普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする同法の趣旨等に照らして不合理であって上記の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められるときは,その議決は違法となり,当該放棄は無効となるものと解するのが相当である。そして,当該公金の支出等の財務会計行為等の性質,内容等については,その違法事由の性格や当該職員又は当該支出等を受けた者の帰責性等が考慮の対象とされるべきものと解される。
私自身は、こういった債権放棄は、地方自治体に損害を及ぼす背任行為、という捉え方をしてきたのですが、確かに、最高裁が想定しているような、関係者の責任を問うのはいかにも酷であり債権放棄をするのもやむを得ない場合、というのも存在はするだろう、ということは感じます。ただ、最高裁が指摘するような、「普通地方公共団体の執行機関又は職員による公金の支出等の財務会計行為又は怠る事実に係る違法事由の有無及びその是正の要否等につき住民の関与する裁判手続による審査等を目的として住民訴訟制度が設けられている」ことには重い意味があり、住民訴訟の結論が出たにもかかわらず、債権放棄してその結論を無にするような行為は、現行法制度上では、あくまで「例外」であるべきではないかと思います。そういうことはできない、という原則を明示し、例外について、上記のような要件を踏まえて是認される場合もある、という構成にすべきであったのではないかと思います。
最高裁は、「違法事由の性格や当該職員又は当該支出等を受けた者の帰責性等」を、特に考慮すべき要素としていますから、関係者に故意または重過失があるような、違法性が特に強いケースを、債権放棄が許されない典型例として想定しているのでしょう。