最高裁平成21年9月15日第二小法廷決定で、判例時報2070号60頁以下に掲載されていました。補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条1項違反の罪(補助金等不正受交付罪)がいかなる範囲で成立するかについての判断が示されています。
これについては、判例時報のコメントで紹介されている通り、成立範囲は正当に受給できたものを含むとする全額説と、正当に受給できたものが可分であればそれを超えた不正受給分についてのみ成立するとする差額説があり、本件の原判決までは全額説に立っていた一方、差額説に立つ下級審裁判例もあるという状況の中、最高裁は、同罪について、不正の手段と因果関係のある受交付額について成立すると解し、本件でも、そのような因果関係のあるものは「対象牛肉以外の又は実在しない牛肉に係る受交付額」(不正受給分)であるとして、原判決が法令の解釈適用を誤ったものとしています(犯罪の成立に影響を及ぼさず量刑も不当とは言えないとして上告は棄却)。
詐欺罪が問題になる場合、騙取金に正当に受け取るべき金が含まれていても、相手方が錯誤に陥っていなければ全額を交付しなかった、として全額につき詐欺罪が認定されるのが通例で、上記の全額説は、それとパラレルに考えようとするものではないかと思われますが、最高裁が、そのような考え方には立たず判断手法を明示した意義は大きいでしょう。
判例時報のコメントでは、「生活保護の不正受給罪など補助金等不正受交付罪と同様の構成要件が規定されている犯罪が存することにもかんがみると、実務上意義のある判例であると思われる。」としていて、他の犯罪の解釈への影響ということも、今後、検討する必要があります。