日本刑法学会第85回大会に参加して

一昨日、昨日と、名城大学で開催された日本刑法学会大会(第85回)に参加した感想を、若干、ここで書いておきます。
両日の午前中に、合計6本の研究報告があり、私は、都合で1日目の研究報告だけ聞きましたが、聞いた中で特に興味を感じたのは、「公務員の職務違反の不作為と刑事責任」(名古屋大学・齋藤彰子氏)でした。発表自体は、意欲的であるものの、やや実務的ではないように感じましたが、この種の問題は、薬害エイズ事件でもクローズアップされ、今後、ますます問題になって行くことが予想され、実務上も看過できない重要性を帯びていると感じました。
1日目の午後に、3つの分科会が開かれ、私は、共同研究「経済活動と刑法」に参加しました。伝統的な刑法理論は、個人の刑事責任追及を主眼としている側面が強いと言えますが、様々な経済活動が国民の生活に多大な影響を及ぼす中で、そのような活動(特に組織によるもの)に対し、刑罰法令をいかに適用するかは、ライブドア事件にも見られるように、大きな関心を集めている面があり、今後、様々な形で問題になって行くことは確実です。私も、質問をする機会を与えられましたが、そこで言いたかったのは、従来の厳格な解釈を次第に緩め適用範囲を広げることで経済活動に処罰の網をかけるのも1つの方法ではあるものの、どこかで限界は生じるのではないか、その場合に、従来の個人を中心とした処罰の体系とは別の体系でも構築し、例えば組織のメンバーが違法行為を行った場合に組織による指導・監督の不備・不徹底があれば組織そのものとか組織上層部の刑事責任を厳しく問う、という方向性で進むべきなのか、もしそうなった場合に経済活動への萎縮効果、悪影響ということが出ないのか、といったことでした。これらの点は、今後も引き続き検討したいと考えています。
2日目の午後に、合計で10のワークショップが開かれ、私は「裁判員制度」に参加しました。愛知大学の加藤克佳教授の司会で進められ、何かと話題の裁判員制度について、かなりポイントを突いた問題点が次々に検討され、私にとって、かなり参考になる内容でした。私自身もいくつかコメントをさせてもらいましたが、法務省からの参加者から立法の経緯に関する説明も聞くことができ、また、裁判官や検察官によるコメントも実務が直面することになる問題点を的確に指摘していたと思います。
裁判員法自体、「こうしなければならない」といった規定の仕方を敢えて避け、実際の運用の際の裁量に基づく権限行使を可能にして、形式的・画一的処理に陥らないようにする、といった配慮が各所になされているようであり、実際にやってみないと適切な運用が何かが決められない、という面はあるように感じました。
しがない弁護士にしか過ぎない私にとっては、なかなか難しいところもありましたが、考えさせるところが多く、また、今後の勉学意欲をかきたてるものもあった、有益な大会であった、と思いつつ、帰京しました。