機密資料等の持ち出しと「不法領得の意思」

デンソーの中国人社員を逮捕・パソコン横領容疑、データ複製
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20070317AT1G1603Y16032007.html

容疑者は同社社有のノートパソコンに社内のデータベースから電子設計図約13万件のデータをダウンロード。今年2月5日ごろ、会社に無断でパソコンを自宅に持ち帰った疑い。

容疑者は自宅で私物のパソコンに接続し、データをコピーしていたという。

この件、指宿教授のブログで、

http://imak.exblog.jp/5248585/

横領罪の成立に疑問が呈されていたので、自分自身の勉強のために、ちょっと調べてみました。

裁判例コンメンタール刑法 第3巻

裁判例コンメンタール刑法 第3巻

の172ページから173ページに、「資料等の持ち出し」について解説した箇所があり、この種の行為について不法領得の意思を肯定した裁判例が7件ほど紹介された上、「産業スパイ」の事案にあっては、

その実質的価値観としては、機密書類の経済的価値は、それに記載された情報の内容にあり、かつ、その価値は権利者以外の者の利用が排除されていることで維持されており、情報の内容が他に漏洩すれば、その経済的価値は大きく減殺されるから、上記事案のような行為は、まさに不法領得の意思によるものであるという点で一致していると見て差し支えない

これらの事案では、返還の意思ないし事実の有無や、持ち出しの時間の長短、物理的損耗の有無を問わず、不法領得の意思を認めるのが、確定した判例であるといえる。

と解説されていました。
また、同書417ページでも、横領罪についても同様という前提の上で、裁判例(東京地判昭和60年2月13日判例時報1146号23頁)が紹介されていました。
上記の解説は、この種事案に関する実務的な考え方をわかりやすく述べていて、今後の同種事案を考える上でも参考になると思われます。