村上代表の会見、検察側と食い違う主張

http://www.asahi.com/national/update/0606/TKY200606050540.html

これを受け、同年11月8日に村上ファンド社内で、堀江前社長、LD前取締役の宮内亮治被告(38)らと会談。LD側から「ニッポン放送欲しいですね。経営権取得できたらいいですね」と明かされたという。
特捜部は、村上代表がこの会談で、LDが同放送株の大量取得を決定していることを知ったとし、この時点で証券取引法で規定されるインサイダー情報をつかんだとみている。検察幹部は「その気にさせて、その気になったのを知ったインサイダー。聞いちゃったという話ではない」と語る。
しかし、村上代表は、この時点では「あまり実現可能性のある話ではないと思っていた」という。「LDは04年9月まで20億円以上の買収をしたことがない。そんな会社がどうやってできるのか」と思ったのが、その理由だ。

確かに、ここは、今後、問題となり得るところでしょう。実現可能性があまりにも低ければ、証券取引法上の「重要事実」とは言えない、という立論も可能かもしれません。
私は特捜部ではなく(当たり前ですが)、証拠関係も見ていないので、あくまで推測、印象論になってしまいますが、「大量取得」について、基本的な方針が決定したということになれば、細部で決定していないことがあっても、それは重要事実と評価されるでしょうし、それを知った上での取引は、インサイダー取引になると思います。証券市場の公正を確保する、という証券取引法の立法趣旨に照らしても、基本方針の細部にまで決まっていなければ重要事実にはならない、といった解釈が生じる余地はないと私は思います。
神崎克郎ほか・証券取引法(青林書院)927ページにも、この問題に関連して、

公開買付け等の行為の実施の決定は、公開買付け等を「行うことについての決定」であり、その対象会社は具体的に明確になっていることを必要とするが、その行為の条件及び方法が具体的に決まっていることを必要としない。

とあります。
この種の違法行為について、知った重要事実を「利用する意図」ということは、証券取引法上、構成要件として要求されていないことに留意すべきでしょう。一定以上の重要な情報が偏在してしまった場合、偏在した状態での取引をさせないことで市場の公正を確保する、というのが、インサイダー取引を処罰する証券取引法の立法趣旨であり、村上氏のような「プロ」を名乗る人であれば、そのことは十分理解しているはずです。
村上氏の弁明を見ていて思うのは、この人はかなり頭が良い人だな、ということですね。まず全面否認で臨んでみて、証拠関係からそれが無理だと察すると、鮮やかに方針転換し、一応認めはするものの、事件の中の、やや弱そうなところを巧みに突いたりしながら自らの悪質性のなさを強調し、あわよくば無罪を狙う、というのは、普通の素人にはなかなかできないことです。
ただ、村上氏が証券取引のプロならば、東京地検特捜部は犯罪(特にこの種の経済犯罪)捜査のプロですから、村上氏が用意している何重にもわたる防衛線は、既に、察知して、打ち破る方策を準備していると見たほうがよいのではないかと思います。