<インサイダー>村上世彰被告に猶予付き判決 東京高裁

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090203-00000055-mai-soci

門野博裁判長は、懲役2年、罰金300万円、追徴金約11億4900万円とした1審判決(07年7月)を破棄し、懲役2年、執行猶予3年、罰金300万円、追徴金11億4900万円を言い渡した。村上元代表は1審に続いて「違法性の認識は全くなかった」として無罪を主張していた。
村上元代表は04年11月、ライブドア元社長の堀江貴文被告(36)=別の証券取引法違反で1、2審実刑、上告中=らから、ニッポン放送株の5%以上を買い集めることを決めたとの伝達を受け、公表前の05年1月までに計193万3100株を約99億5000万円で買い付けたとして起訴されていた。

有罪判決が維持された理由とともに、実刑判決が破棄され執行猶予が付された理由についても、強い関心がありますね。まだ、判決理由がわかりませんが、わかり次第、私なりにコメントしておきたいと考えています。
以前、

村上被告に懲役2年、追徴金11億4900万円・東京地裁
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20070719#1184808345
村上ファンド事件1審判決・残る法律上の問題点(日経産業新聞の記事に関連して)
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20070722#1185033915

とコメントしたことがありますが、そのあたりについて、どのような判断が示されているのでしょうか。
堀江氏は、上告中とはいえ一審も控訴審実刑、村上氏は控訴審で執行猶予と、明暗が分かれた、その背景にも興味を感じます。

追記:

法廷にいた人を通じて、判決速報のようなものに接することができ、一通り読んでみましたが、とりあえずの感想は以下の通りです。
1 上記の判決時のエントリーでコメントしたような「決定」の意義、本件においてそのような決定に至った時期について、意義については、

決定に係る内容(公開買い付け等、本件でいえば、大量株券買集め行為)が確実に行われるという予測が成り立つことまでは要しないが、その決定はある程度の具体性を持ち、その実現を真摯に意図しているものでなければならないから、そのためには、その決定にはそれ相応の実現可能性が必要であると解される。その場合、主観的にも客観的にも、それ相応の根拠を持ってそのよう実現可能性があると認められることが必要である。

として、原判決の「決定については、機関において公開買付け等の実現を意図して行ったことを要するが、それで足り、実現可能性が全くない場合は除かれるが、あれば足り、その高低は問題にならない。」という判断よりも限定して捉えています。この点は原判決がかなり批判を受けてきたもので、高裁判決で軌道修正が図られたものと言えます。その上で、そのような意味での決定が存在したかどうかについて、高裁判決では、原判決が、平成16年9月15日の時点で堀江氏らが被告人からの説明を受け機関決定したという認定をしているのは、この時点では可能性の検討の端緒に留まるとして、一般投資者の投資判断に影響を与える程度の決定があったとは言えないとしています。
しかし、その後、同年11月8日の会議の段階までに検討が進められ、「堀江氏らが11月8日の会議設定につき了承を与えた時点においては」決定があったと言うべきであるとしていて、決定の成立時点を原判決よりも遅く認定していることがわかります。この点、原判決には事実誤認があるが、判決には影響を及ぼさない、と結論付けられています。
2 上記の判決時のエントリーでコメントした「機関」による決定と言えるか、伝達されたか、被告人に故意が認められるかについては、原判決の判断が踏襲されています。
3 注目されるのは、量刑に関する判断で、ここで、おそらく弁護人の控訴趣意に一定の理解を示したことで、執行猶予を付し、法人の罰金額を減額するという結論に至っています。
 高裁判決では、被告人の刑事責任が重いということを指摘しつつも、私なりにまとめてみると

① 村上ファンドが持っていた「物言う株主としての側面」の経済社会における評価には成熟した議論がなされておらず、そういった企業活動の一面のみを捉えてこれを量刑事情として取り込むことには慎重であるべきである
② 平成16年11月8日以降、平成17年1月6日までは、従前からの方針(戦略)に基づいて被告人は動いており、ライブドアから得たインサイダー情報をことさら利用する意図はなく、当初は、インサイダー情報であるとの被告人の認識自体も強いものではなく、そのような認識状況の下で購入したニッポン放送株が、起訴にかかる購入株の大きな部分を占める
③ 上記のような「決定」に関する判例の蓄積が多くなく解釈についても諸説ある中で、被告人が、もっと具体的な情報でなければインサイダー情報には該当しないと解釈し行動していたことにつき、すべてを被告人の責任とするのはやや酷である

といった事情を指摘した上で、

④ 被告人が社会的に強い非難を浴びてファンドを解散し株取引の世界から身を引き、前科もないこと等の被告人にとって酌むべき事情

も併せ考慮した上で、原判決を破棄し、執行猶予を付し、法人の罰金額を減額しています。
原判決が、物言う株主としての村上ファンドの活動自体にかなり批判的な姿勢を示していたのに対し、高裁判決は上記①のように慎重な態度で臨み、かつ、インサイダー情報であるという被告人の認識や利用意図についても、1月6日までとその後を分けて考え、上記②③のような事情を十分酌んでいるのが特徴的です。上記②③のような事情があるということが、そのような事情があるようには考えにくい(高裁までの有罪判決を前提とする限り、ですが)堀江氏とは大きく異なり、そこが実刑と執行猶予を分けたということが言えるかもしれません。
印象としては、弁護人が無罪主張の理由としたところが、無罪という結論には結びつかなかったものの、量刑判断において大きく生きていて、主張が無駄にならなかったということが言えるように思います。
被告人は上告したということですが、判決としては、原判決の問題点が巧みに是正され、「決定」の意義についても、上記の通り最高裁判例とも整合しつつ常識的なところに落ち着いていて、これが最高裁で覆るのはかなり困難ではないかという印象を受けます。
先日、

ライブドア・ショックから3年--相場復活を期待する声高まる
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20090117#1232150240

で、

過渡期、転換期であっただけに、法の網にかかってしまった人や組織(ライブドア関係者のような)と、そこからすり抜けてしまった人や組織が出てしまった、ということも言えるでしょう。その意味で、前者が、後者を捉えて不公平感を強く持つのも無理からぬ面があり、従来は執行猶予がつくことがほとんであったというこの種事件の量刑相場が、躊躇なく実刑判決を宣告するという形に大きく踏み出したということについても、上記のような時期、事情の中の事件に対するものとして、果たしてそれで良かったのかという疑問を生み、そういった疑問は、今後も指摘され続けて行くのではないかと思います。

とコメントしましたが、今回の高裁判決の、特に上記の①②③のような点を見ると、高裁なりに、そのような疑問、批判にも留意しつつこの事件を慎重に検討したのではないかと感じさせるものがあります。
村上氏としては、有罪認定には不満であるものの、この高裁判決が最高裁で量刑不当を理由に破棄され再び実刑になる可能性はほぼありませんから、服役の可能性がなくなって、ほっと一息ついていることでしょう。
おそらく堀江氏は(多分、宮内氏も)大いに不満でしょう。捜査、起訴したのも判決を書いたのも私ではないので、堀江氏には、また落合弁護士が、などと言わないでほしいと思いますが、このエントリーを読むと怒りがますます増すかもしれませんね。