本日のコメントに関する私見

本日の本ブログコメント欄で、ライブドア事件について、

1 だだっ広い不明確な構成要件が設けられているという立法論
2 それにつき「何か怪しければアウト」という程度の極めて恣意的な運用しかされていないように思えること(しかも世論への考慮が相当な動機となっていると思われること)
3 刑事村の側も企業法務の世界で日常的に行われている取引やストラクチャーについて十分な理解を有しているとは思えないこと

という指摘がありました。現在行われている、1つの代表的な見方と思われますので、若干、コメントしておきたいと思います。
まず、1ですが、現在、問題となっている中で、おそらく、これは確実に特捜部が立件、起訴を目指していると思われるのは、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060127#1138290993

で触れた証券取引法158条の罪(風説の流布等)と、同法で禁止されている有価証券報告書虚偽記載の罪でしょう。
しかし、いずれの罪についても、構成要件としてはかなり処罰範囲は限定的であり(例えば、158条の罪は目的犯であり、目的による限定が行われています)、今までの議論を見ても、これらの罪の構成要件が「だだっ広く不明確」といった批判は、皆無とまでは言いませんが、ほとんどないと言っても過言ではないと思います。
また、2についても、少しでも実態を知る者であれば、上記のような犯罪が、「何か怪しければアウトという程度の極めて恣意的な運用」により、どんどん摘発されている、どころではなく、摘発は正に氷山の一角であり、本来、摘発されるべきものが摘発されていない可能性が高い、という印象を強く抱いているものだと思います。
私は、少し前に、本ブログで、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060125#1138121982

と述べましたが、現在、大量に報道されているライブドアに対する「嫌疑」と称するものは、あくまで、マスコミが取材により嫌疑ではないか、と考えているものであって、その中で、特捜部及び証券取引等監視委員会が立件、起訴を目指しているものは、ごく一部ではないか、という認識を持ってみるべきだと思います。この辺は、刑事事件を見る目というものをある程度持っている人が見れば、雑多な報道の中で、多分、ここが狙いだな、というものが何となく見えてくるものです。
したがって、報道されている嫌疑、疑惑全体が、特捜や証取の追い求めているものであるかのように論じ、それは広すぎるとか恣意的だ、などと言っても、あまり意味のある議論とは言えないでしょう。立件、起訴を目指している「核心」部分に、まず目を向けるべきだと思います。
2にある、「世論への考慮」ということについても、既に、私なりに思うところを本ブログで述べたことがあります。

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060122#1137897955

そこで述べたように、

動機や経緯に不純なものが含まれていたとしても、立件し起訴する、という段階にまで至れば、公判を維持し有罪判決を獲得できるか、という観点から厳密な証拠評価を行わざるを得ないので、その段階で、「はめる」「陥れる」といった要素を含めるということは、まず不可能というのが、日本の捜査(特に経済事件の捜査)の実態ではないかと思います。

というのが、私の率直な意見です。
仮に、特捜部や東京地検などに、「一罰百戒」という意図があったとしても、ライブドア事件は、東京地検特捜部や証券取引等監視委員会が、その総力を挙げて取り組むだけの価値がある事件と言えるでしょう。事件選択にあたり、恣意性や不平等は極力排除されるべきであることは言うまでもありませんが、証拠の有無・程度、捜査機関の態勢における限界(人員など)から、世の中のあらゆる事件を捜査の対象にすることができないことも、やむをえないことであり、その点を、執拗にことさら取り上げても、実際上の実益はあまりないのではないかと思います。
3については、日頃、企業法務中心に仕事をしている人が、刑事事件について疎いように、検察庁関係者は、企業法務や関連分野について精通しているわけではありません。
ただ、ここはよく覚えておくべきであると思いますが、一旦、「事件」として捜査の対象にする、ということになれば、担当検事などが、関連分野について徹底的に勉強するのは当然のことで、また、証券取引法違反事件であれば、証券取引等監視委員会による全面的なバックアップもあり、極めて短時間のうちに、問題となる分野については、企業法務専門家顔負けの専門知識を身につけてしまう、という可能性が極めて高いことです。この辺の能力は、途中で検察庁ドロップアウトしてしまった私程度の能力の、数倍、十数倍といったものを特捜検事は持っていますから、侮るべきではありません。
ライブドア事件を、日本の刑事事件(特に東京地検特捜部が捜査した事件)の中でどのように位置づけるべきかは、さらに捜査状況を見た上で、後日述べてみたいと思っています。