特捜部の手法

あくまで一般論ですが、地検特捜部が捜索・差押を行う場合、令状記載の被疑事実だけが念頭に置かれているということは、まずなくて、対象となっている被疑者、被疑会社に関する、あらゆる容疑を念頭に置き、ありとあらゆるものを根こそぎ押収してくる、ということになります。
特捜の捜索・差押許可状には、差押対象物件として、世の中に存在し得る、ありとあらゆる物が記載されているのが通例で(A4の紙一枚に、隅から隅までという感じで記載されているものです)、関連性についても、比較的緩やかに見ることが可能なので(刑事手続としては問題が指摘されているところですが)、一切合切、ことごとく持って行ってしまう、という状態になりがちです。その結果、段ボール何十箱とか、トラック何台、といった話になるわけです。
押収した証拠物については、早速、検察庁内で「物読み(ぶつよみ)」が始まります。検事や、経験のある事務官が手分けして、証拠物を1つ1つ見ながら、「物読み表」という紙に(最近はパソコンで入力しているかもしれません)、証拠物の内容や注目点などを書き出して行くという作業が集中して行われます。この資料は、作成後、関係者に配布され、証拠物を検討する際の参考に供されます。
昔は、特捜部勤務歴が非常に長い、熟練した検察事務官がいて、そういった人々によって、物読みが極めて迅速かつ的確に行われていた、という話を聞きますが、そのような伝統は、今に至るまで脈々と受け継がれていると見てよいでしょう。
「人に聞くより、物に聞け」というのは、昔から言われている捜査の鉄則ですが、特に、会社犯罪の場合、証拠物上、いろいろな形で犯罪の痕跡が残っている、ということがよくあり、こういった徹底的な捜索・差押や物読みにより、非常に重要かつ決定的な証拠が確保される、ということも少なくありません。
捜索・差押の前の内偵段階で、捜査担当者(特捜部では副部長、主任検事クラス)は、徐々に、想定されるストーリーを構築するものですが(この辺の能力が、特捜畑で一兵卒に終わらず名を成す上では重要でしょう)、上記のように確保された証拠物を基に、さらにストーリーを検証し、「これで行ける」という見通しが立てば、関係者の「身柄」に対する強制捜査へと移行し、知能犯捜査においては不可欠の供述証拠の確保という最終局面へと進んで行くことになります。
今回のライブドアに対する強制捜査は、そういった最終局面の一歩手前まで到達していることの現れ、と見ることも十分可能でしょう。