信長の城

信長の城 (岩波新書)

信長の城 (岩波新書)

織田信長が関わった城を紹介した本、という、軽い印象で買ってみたのですが、読んでみると、かなりの洞察が展開され深みがある、刺激的でおもしろい本でした。最近、読んだ歴史関係の本の中では、トップ3に確実に入ります。
城、というと、物理的な構造面に焦点を当てて語られやすい傾向がありますが、本書では、織田信長が徐々に絶対的な権力を確立する方向で進み、それに伴って、移って行った複数の城の構造もそれに応じたものになって、最終的に、安土城織田信長の思い描いていた構造が確立された経緯や、そうではありつつも、安土城も、戦国期の室町様式を残した部分があって過渡期のものとしての側面があったことなどを、文献史料と実際の発掘結果の分析、考察を駆使しながら、具体的、合理的に論じていて、かなりの説得力を感じました。
特に印象深かったのは、どういう姿であったか諸説ある安土城天主について、実際の発掘結果も踏まえ、「懸け造り」(京都・清水寺の「清水の舞台」のような、傾斜した部分の上にせり出した構造)を備えていた、と推定していることで、そのように推定することで文献史料(信長公記)の内容とも整合し、ただ、そうなると従来の推定構造とは大きく異なることになって、従来のイメージが根底から覆る驚きがありました。特に、安土城天主やその周辺の建物についての本書の考察については、映像化して紹介してほしい(例えばNHKスペシャルのような番組で)と強く感じました。
城というものが、単に戦闘、防御といったことのためだけにあったのではなく、権力構造や築造する人の考え方を色濃く反映していることがよくわかって勉強になり、今後の城への見方がより深まったような気がしました。興味ある方は是非読んでみてください。