<名誉棄損>ネット上「深刻な被害ある」最高裁初判断

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100316-00000131-mai-soci

インターネット上の表現を巡り名誉棄損罪の成立要件が争われた刑事裁判で、最高裁第1小法廷(白木勇裁判長)は15日付の決定で「閲覧者がネット上の情報を信頼性が低いと受け取るとは限らない」と述べ、ネット上の表現も罪の成立要件は他の表現方法より緩やかにならないとの初判断を示した。

1審・東京地裁は08年2月、「ネットは情報の信頼性も低いと受け止められている」と指摘。罪の成立要件はマスコミ報道や出版より限定すべきだとした。これに対し高裁は「ネットに限って基準を変えるべきでない」と覆した。
小法廷は「ネットの情報は不特定多数が瞬時に閲覧可能で、時として深刻な被害がある。それ以外の表現手段と区別して考える根拠はない」と判断した。

高裁での有罪判決の際、

中傷書き込み、逆転有罪=ネットで名誉棄損−東京高裁
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20090130#1233302688

とコメントしましたが、1審判決が示した問題意識、基準は理解できるものの、表現媒体により名誉毀損の成立要件を変えてしまうと、逆に、緩和した成立要件を適用すべき媒体は何かということが問題になり、その区別は極めて困難で、実務的には採り得ない基準であったと言わざるを得ないと思います。
ただ、ネット上での表現行為が萎縮してしまうことを防ぐために、そういった行為についての検察権の行使は慎重に行われるべきであると思います。例えば、東京地検特捜部は、週刊誌等による名誉毀損案件の告訴を受けても、片っ端から不起訴にしていますが、そういう中で、なぜ、上記の事件が敢えて起訴されたのか、私は今でもよくわかりません。
また、民事上の紛争解決においても、表現行為の後、表現者が指摘を受け誤りを認め迅速に削除等の措置を適切に講じた場合は損害賠償を免除する制度を設ける、裁判外の紛争解決方法(ADR)を整備するなど、今後とも改善が必要ではないかと思います。

追記(平成22年7月6日)

判例時報2075号160頁(最高裁第一小法廷平成22年3月15日決定)
1審判決(東京地方裁判所平成20年2月29日判決・判例時報2009号151頁、判例タイムズ1277号46頁)
2審判決(東京高等裁判所平成21年1月30日判決・判例タイムズ1309号91頁)