http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111221-00000104-san-soci
同小法廷は「ウィニーの利用方法は個々の判断に委ねられている」と指摘。その上で、幇助罪の成立は「多数の者がソフトを著作権侵害に利用する可能性が高いと認識して公開、提供し、実際に侵害行為があった場合に限られる」などと初判断を示した。
金子被告については「ウィニーを著作権侵害のために利用する人が増えてきたことは認識していたが、多数の者がその目的のために利用していると認識していたとはいえない」として、幇助の故意までは認められないと結論付けた。
この事件の、京都地裁1審判決(有罪)については、
Winny京都地裁判決要旨を読んで(前)(後)
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20061217#1166287607
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20061219#1166461792
と、大阪高裁2審判決(逆転無罪)については、
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20091008#1254968523
とコメントしたことがあります。
最高裁決定の概要が把握できたのですが、特徴としては、
1 高裁判決の論理については、従来の幇助犯理論に照らし、刑法62条(幇助犯に関する規定)の解釈を誤ったものとしつつ
2 Winnnyのような適法にも違法にも利用できる価値中立的なソフトを公開、提供するにあたっては、著作権侵害の一般的可能性があり、それを認識、認容しつつ行い、著作権侵害利用が行われただけでは幇助犯は成立せず、具体的な侵害利用状況が存在し、それを提供者が認識、認容する必要があるとして、そのような場合として、
a ソフト提供者がそのソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら公開、提供を行い実際に著作権侵害が行われた場合
b そのソフトの性質、客観的利用状況、提供方法などに照らしソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者がソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められ提供者もそれを認識、認容しながら公開、提供を行い実際に著作権侵害が行われた場合に限り幇助犯が成立するとして
3 本件については、aには該当せず、bについては客観的に見て例外的とはいえない範囲の者がソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高い状況下での公開、提供行為であったことは否定できないものの、被告人の主観面において、Winnyを著作権侵害のために利用する者が例外的とはいえない範囲の者にまで広がっており公開、提供した場合に例外的とはいえない範囲の者が著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識、認容していたとまで認められない(故意がない)
として、無罪という結論を導いています。
従来の幇助犯理論の枠組み(他人の犯罪を容易にする行為を、それを認識、認容しつつ行い、実際に正犯行為が行われることで成立)を堅持しつつ、本件のような、「中立的行為」(例えば、金物屋が刃物を客に販売するような価値中立的行為)については、その価値中立性に着目し、「具体的な侵害利用状況の存在」を、まず客観的に要求し、それに見合う認識、認容が必要であるとして、客観面、主観面で犯罪成立の要件に絞りをかけようとしたものと評価できるのではないかと思います。
ただ、上記のbのように、「例外的とはいえない範囲の者が違法利用する蓋然性が高くそれを認識、認容する場合」も含められることで、ソフト公開、提供といった行為については、客観面に主観面が連動して、有罪になりやすいという性質を持ってしまうのではないか、ということが懸念されます。その点は、大谷反対意見が、理論面では多数意見に沿いつつも有罪としていることに顕著に表れているのではないかと思います。「例外的とはいえない範囲」というのは、かなり広く、緩やかなものがあるでしょう。
大阪高裁判決が、
価値中立のソフトをインターネット上で提供することが、正犯の実行行為を容易ならしめたといえるためには、ソフトの提供者が不特定多数の者のうちに違法行為をする者が出る可能性・蓋然性があると認識し、認容しているだけでは足りず、それ以上に、ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めて提供する場合に幇助犯が成立すると解すべきである。
という基準を設定した理由も、そういった点への懸念があったのではないかと推測されます。
結論としては無罪となり妥当なものにはなりましたが、その理論構成を見ると、大阪高裁判決よりは後退し、中立的行為に関する幇助犯の成立に適切な絞りをかけ切れず、ソフト公開、提供といった行為については今後も萎縮的効果が生じる恐れが残る面があり、めでたさも中位、という印象を受けるものがあります。
追記1:
最高裁のサイトで決定書がアップされています。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111221102925.pdf
追記2: