調書漏えいの鑑定医に有罪 「軽率、公私混同」、奈良地裁

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2009041501000342.html

弁護側は(1)鑑定には医師が前提とする治療目的がなく、鑑定人は秘密漏示罪が守秘義務を課す医師に該当しない(2)供述調書は法廷で公開されるのが前提で秘密に当たらない(3)長男が殺人者でないことを社会に理解してもらうという正当な理由があった―などと無罪を主張した。
 しかし、判決は「被告は法が規定する医師で、精神鑑定は業務に当たる」と指摘。調書も「秘密」に該当するとした。その上で、取材への協力であっても正当な理由がないので違法であることは免れないと結論づけた。

秘密漏示罪の構成要件をごく普通に捉えれば、報道されている事実関係を見る限り、構成要件に該当するうえ違法性を阻却するような事情も特にない、と言えるように思います。ただ、責任の問題や、自分が手がけている捜査に関する世論形成を狙うなどして情報をリークするような捜査機関幹部もいて野放しになっているような中で、なぜ、この被告人が起訴されなければならなかったのか、立件、起訴に不公平感があるのではないか、といった問題はどうしても残るでしょう。また、漏らされた情報を、情報源に対する配慮を欠いたまま書籍化した出版社や著者が、特に責任を取るでもなく、結局のところ、不問に付されていて、保護されるはずの情報源がとんだ貧乏くじを引かされている、というのも、それは違うだろう、という気がします。
違法かどうか、相当かどうか、すれすれのところで情報提供を行う人というのは常にいるものですが、この事件から教訓を引き出すとすれば、提供した情報を、提供者が誰かがすぐにわかるような形で(例えば供述調書の内容をそのまま掲載してしまうとか)垂れ流すような人や組織を決して相手にしてはいけないし、人を、組織を慎重に見ないと、大変な事態になりかねない、ということになるでしょう。

追記:

判例時報2048号135頁(奈良地判平成21年4月15日)