労役場留置期間を定めるに当たり1日に満たない端数を生じる換算率を定めることと刑法18条4項(最一決平成20年6月23日・判例時報2010号155頁)

刑事事件で罰金が納付できない場合、労役場で労役に従事する、という制度になっています(要するに働いて償う、ということですね)。労役場留置期間の上限は、罰金では2年までなので、脱税事件などで罰金額が巨額にのぼる場合、2年くらいなら労役場に入って償ってきたほうがよい、ということも起こり得ます。
この最高裁決定では、一日当たりいくら、と換算して労役場留置期間を定めたものの端数が生じてしまった場合について、端数の分は労役場留置ができないだけで、そういった判決自体が違法になるものではない、ということを、古い判例を確認する形で支持していて、実務上、重要性のある判例と言えるでしょう。
従来の高裁レベルの裁判例では、そうではなく違法である、としたものが多かったようですが、なぜ最高裁がそれに乗らなかったのかと推測するに、端数処理をしない、というのは、一種のチョンボとして起きやすく(実際、上記の事件の一審判決は法令の適用を間違っていたことが高裁判決で指摘されていています)、端数処理をしていなくても、所詮、1日労役場に留置するかどうか、というだけのことで、端数処理をしていなければ労役場留置期間が1日減るだけで被告人に有利になる(と言っても、所詮、1日だけですが)話でもあるので、無益な上訴を抑制するためにも、それで良いと考えたのではないか、という印象を受けました。
なお、細かい話ですが、端数分について、本件の高裁判決では、定められた労役場留置期間につき執行されることで罰金刑全部の執行がされることになり端数分について執行不能は生じない(要するにその分は切り捨て)、ということを述べていますが、上記の最高裁決定に関する判例時報のコメントでは、そういった考え方や、そうではなく端数分について任意に納付したり強制執行すること(法務省はこの考え方に立っているようです)を可能とする考え方のいずれについても、本決定の判示するところではない、としていて、今後、そういった問題が生じた場合、検察庁の執行担当者としては、やや悩む場面が生じそうです。