唐津の女性殺人事件 「強盗」は認めず懲役18年の判決

http://www.asahi.com/national/update/0708/SEB200807080006.html

被告は元飲食店員の被害女性(当時21)と短期間交際。別れた後に女性から金を借り、事件当時は残額が31万円あった。
強盗殺人罪は借金踏み倒し目的の殺人にも適用される。被告は捜査段階では「借金返済を免れる目的で殺害した」と動機を供述したが、公判で翻したため、強盗殺人罪が成立するかが争点となった。

刑法では、

第236条
1 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

とされ、いわゆる「2項強盗」というタイプの強盗もあって、債権者を、債務を免れるため殺害するという行為について強盗殺人罪が成立する場合もあります。ただ、1項の、「財物」を強取する行為と同視できるだけの実質を備えている必要があると、通常、考えられており、客観面及び主観面で、そのハードルはかなり高くなります。殺害の動機が、債務を免れるというかなり明確なものであることが必要であると同時に、実態としても、殺害行為により確実に債務が免れられる、といった事情が必要、というのが実務で、起訴、有罪例としても、この種のタイプはあまり多くない、と言えるでしょう。かつて、この種のタイプの強盗殺人事件を起訴したことがあり、その際、起訴例等をかなり調べたことがあるので、私自身、この種の事件の難しさはよくわかります。ちなみに、私が起訴した事件は有罪となり被告人は無期懲役となって服役しました。
上記の記事にある唐津の事件は、記事を見る限り、借金残額が31万円とそれほど多額ではなく、しかも、分割で返済していたということであり、事件の「筋」として、これで強盗殺人はちょっと無理筋では、という印象を受けるものがあります。強盗殺人のような重大事件で無理筋、ということになると、裁判所としても、つまみ食いで検察庁のいいとこ取りしたDVD程度では安易に強盗まで認定できない、と考えたのではないか、という印象を受けます。
この種のタイプの強盗事件は、かなり難しく慎重な捜査が必要である、という教訓となる事件と言えるでしょう。