http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150206-00000048-mai-soci
大島隆明裁判長は「被害者の画像をネット投稿した行為が、起訴されていない名誉毀損(きそん)罪と認定されて実質的に処罰された疑いがある。訴訟手続き違反がある」と述べた。
起訴されていない余罪を、量刑上、どこまで考慮できるかは、刑事訴訟法の講学上も「余罪と量刑」としてよく論じられるところですが、最高裁の判例では、起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料に考慮し、被告人を重く処罰することは許されないが、刑事裁判における量刑は、被告人の性格、経歴および犯罪の動機、目的、方法等すべての事情を考慮して、裁判所が法定刑の範囲内において、適当に決定すべきものであるから、その量刑のための一情状として、いわゆる余罪をも考慮することは、必ずしも禁ぜられるところではない、とされています。ポイントは、「起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料に考慮」したか、そうではなく、「量刑のための一情状として余罪を考慮」したかどうかということになります。
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20150207#1423208867
で引用されている東京地裁の判決を見ると、「量刑の理由」で(赤字は私が付した部分)、
加えて,被告人は,本件犯行後,インターネット上の掲示板に画像の投稿先URLを書き込んで,広く閲覧,ダウンロードできる状態にしており,その後被害者の裸の画像等は広く拡散し,インターネット上から完全に削除することが極めて困難な状況になっている。被告人が,被害者の生命を奪うのみでは飽き足らず,社会的存在としても手ひどく傷つけたことは極めて卑劣というほかなく,この点は,殺害行為に密接に関連し,被告人に対する非難を高める事情として考慮する必要がある。被告人は,画像の公開に当たり,被告人と被害者が交際していた事実を社会に知らしめたいという自己の存在証明の目的を持っていた旨述べるが,同供述を前提としても,画像の拡散行為の悪質性が減じるとはいえない。
このような被告人の行為に対する責任は,上記の犯行態様,高い計画性,強固な犯意,犯行の経緯や動機の点に加え,特に被害者の裸の画像等の拡散により被害者の名誉をも傷つけたという悪質な事情を伴っている点で,男女関係のトラブルによる刃物を用いた被害者1名の殺人事件の類型の中では,量刑傾向の幅の上限付近に位置付けられる重いものといえる。もっとも,裸の画像等を拡散させて被害者の名誉を傷つけた被告人の行為は,それ自体が起訴されていたとしても名誉毀損罪を構成するにとどまるから,その法定刑も踏まえると,本件の悪質性が,刃物を用いた被害者1名の殺人事件全般の量刑傾向に照らし,有期懲役刑と質的に異なる無期懲役刑の選択を基礎づけるものとまではいいがたい。本件については,判示第1の罪について有期懲役刑を選択し,併合罪の加重をした上限の刑を基本とするのが相当である。
と判示していて、特に赤字の部分の口吻が、上記のようなポイントとしての、「量刑のための一情状として余罪を考慮」にとどまらず、「起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料に考慮」したのではないかという印象を与えるものになっていると、私にも感じられるものがあります。
こういった、起訴の余地があるような余罪が起訴されずに重要な情状事実として検察官により立証され、裁判員裁判で審理されるのであれば、先行する公判前整理手続において、重要な情状事実であるという位置付けを明確にした上で、上記のような判例を前提に、特に裁判員に誤解を与えないような主張、立証が工夫される必要があるでしょう。裁判官としては、そこをうまく整理、位置付けて、裁判員に対し、起訴されていない余罪についての考慮には限界があることを十分説明し、評議、判決へと進む必要があると思います。この事件の1審の手続には、そういった点で十分とはいえないところがあって、それが、「量刑の理由」に現れていると高裁により問題として捉えられて、今回の判決になったのではないかと感じられるものがあります。
今後の破棄、差し戻し審では、あるべき、行われるべきことをきちんと行った上で、特に裁判員に適正な量刑判断をしてもらうことが必要になるでしょう。