自白事件でも安心できない

<誤認逮捕>服役の男性は無実 無職男を再逮捕 富山県警
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20070120#1169257299

が大問題になっていますが、私自身の経験の中で、「完全自白」事件でありながら、嫌疑不十分で不起訴にした、ということがありました。既に本ブログで書いたことがあるかもしれませんが、エントリーの中に見当たらないので、書いておきます。
既に起訴された被告人の、余罪として追送致されてきた強盗致傷事件でしたが、被告人の人物像と、目撃者が証言する犯人像が、重要な点で食い違っていて(詳細は覚えていませんが、同一人物とは思いにくい程度の食い違いでした)、被告人(余罪については被疑者ですが)から事情を聞いても、警察調書をなぞったような話しかせず、どうも深みがなくて、「犯人」という心証が得にくい状態でした。
犯行場所が他の県で、目撃者も他県在住でしたが、忙しい中、時間をやりくりして、その県の地検で部屋を借り、目撃者から事情を聞いてみました。その結果、やはり、目撃者が語る犯人像と被告人の人物像が一致しないままでした。
結局、どうもこれはおかしい、という疑いが払拭できず、自白は最後まで維持されていましたが、決裁官にもこういった事情を説明し、嫌疑不十分で不起訴処分にしました。
今、振り返ってみても、あの事件は、どうもおかしな事件で、警察の捜査に無理があったのか、被告人側に何らかの事情があったのか、あるいは他の理由があったのか、その辺はよくわかりませんが、自白が虚偽で、犯人は別にいたような気がします。起訴すれば有罪になった可能性が高いと思いますが(本起訴分は明らかに有罪でした)、隠れた冤罪事件を生んでしまっていた恐れがあるでしょう。
捜査機関が、真相解明のため、自白獲得へ向け力を注ぐのは、適正かつ妥当な手法で行われる限り、当然のことですが、一旦、自白(自白らしきものを含む)を得てしまうと、過度に信用し、面倒な裏付け捜査を行わない、という悪弊があるのも、また事実です。自白に矛盾するかのような証拠があっても、自白に沿う方向で曲解したり、矛盾したまま放置して省みない、といったことも、自白事件だからこそ起きがちな面があります。しかし、そういった安易なことをしていると、今回の富山の事件のような、取り返しのつかない失態へとつながる恐れがあります。
このように、自白事件だからと言って、安心して安易に調べていては危険であり、そういったところにも捜査の難しさというものがあると思います。