舞鶴殺人逆転無罪 間接証拠 危うい立証

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012121302000109.html

弁護側は捜査段階で取り調べの録音・録画を要求したが、実現しなかった。一審が有罪の根拠とした被害者の遺留品に関する被告の供述は「密室」で生まれたものだった。
高裁判決は「当初は具体性に欠けていたのが、長期間の取り調べで具体的供述に変容。捜査機関により誘導された可能性を排斥できない」と批判。その供述内容についても「犯人でなければ知り得ないとの評価に値しない」と一蹴した。
元検事の落合洋司弁護士は「ほぼ目撃証言のみに頼るなど、もともと証拠構造が脆弱(ぜいじゃく)だった」と指摘した上で「録音・録画されていれば、被告の供述経過が明らかになり、(誘導がないとする)検察側に有利になったかもしれない」との見方も示した。

この件については、複数の取材を受け、

舞鶴高1殺害、被告に逆転無罪 目撃証言の信用性否定
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20121212#p2

でコメントしたようなことを話して、それが、上記の記事でのコメントにも反映されています。
私も、いまではしがない弁護士として、こうして細々とコメントをするような状態に落ちぶれていますが、昔は、検察庁で、こういった重大事件について警察から事前相談を受け、思い切って身柄を引いてくるのか、その前に内偵捜査をさらにやるのか、といった、ぎりぎりの場面を経験したことがありました。検察庁としては、身柄を引いてしまえば、逮捕と勾留で、最大限引っ張って22、23日程度しか手持ち時間がなくなってしまうので、どうしても慎重になりがちで、警察ともなかなか意見が一致しなくなります。そういう時に、警察が、昔はよく言っていたのが、「必ず自白させますから」といったことで、難しい事件では、自白頼みで思い切って身柄を引いてくる、ということは、従来はよくあったと思います。それが、無理な取調べや虚偽自白へつながる危険性は、言うまでもないことでしょう。
最近は、弁護活動も徹底して行われ、必ず自白させます、と意気込んでもなかなか自白はとれなくなってきています。捜査機関、特に検察庁としては、自白に依存しない、状況証拠による立証に頼らざるをえないケースが次々と出てきていて、その典型例が舞鶴事件であった、と言えるでしょう。しかし、脆弱な証拠構造しかなければ、裁判所による厳しい吟味、検証に耐えられず、無罪にもなってきます。
現行制度の中で立証に努める、という前提の下では、状況証拠に依拠せざるをない、という見通しであれば、労を厭わない、徹底した、綿密な証拠収集を行う、ということになりますが、これはなかなか至難の技でもあります。
捜査機関にとっては、やはり、大きな曲がり角に差し掛かっていて、制度や捜査手法の面で、大幅な改革が早急に必要なところまで来ている、と考えるべきでしょう。