「ネット事業者は周囲の迷惑を顧みずに利潤を追求してもよいのか?」

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そして、そのような権利侵害を回避するために要したコストは、当該事業者内部で他のコスト削減や利潤の縮小などで対応できない場合には、商品ないしサービス価格の上昇等という形で、当該商品又はサービスの利用者全体が負担することになります。権利侵害回避のために上昇したコストをカバーしきれない場合は、当該商品又はサービスを提供する事業は通常は断念されることになります。

この辺の認識について、一般論としては私も賛同しますが、「インターネット」ということになると、話が少し違ってくるのではないか、というのが、現在の私の実感ですね。
インターネットというものは、誰でも手軽に情報発信ができ、また、情報を受けることができるという「利便性」が本質であり、だからこそ、ここまで爆発的に普及し、その勢いはますます強くなっている状況にあると思います。「手軽」を支えるのは、「安価」ということでもあります。現在、インターネットを利用していろいろな情報を発信してビジネスに結び付けるということが実現し、また、実現されようとしていますが、「手軽」「安価」といったことが崩れてしまえば、インターネットの利便性は著しく減殺されて、その発展は望めなくなってしまう可能性が高いと思います。
手軽さは、一方で悪用の容易さにもつながります。各種の誹謗中傷とか、わいせつ情報の発信などは、その典型です。インターネットの悪用についても、できる限りの対策が講じられなければならないことは、言うまでもないことです。
ただ、悪用対策に熱心になるあまり、インターネットの利便性を大きく減殺する方向で行き過ぎれば、大多数の善良な利用者が、多大な不便を強いられ、インターネットに背を向けてしまいかねません。現状の悪用対策における困難さの根源は、おそらく、ここにあるのではないかと私は考えています。
例えて言えば、自動車事故を激減させるために、「速度は20キロまでしか出してはいけない。」という法律を作り、徹底的に取り締まれば、事故も死傷者も激減することは間違いないでしょう。ただ、そうなれば、自動車の利便性の中の非常に重要な部分がなくなってしまうことになり、日常生活に多大な支障が出てしまうでしょう。そういう状態を、国民が望んでいるとは思えませんし、インターネットについても、同様のことが言えるのではないかと思います。インターネットの匿名性が、いろいろな悪用事例につながっていることは事実ですが、匿名で情報を発信している人々のなかでも、悪用している人はごく一部のはずで(数値は出ませんが、「相当数を占める」とは言えないでしょう)、大多数の人は、悪用に至らない状態の中で匿名性を大なり小なり利用しているというのが現状だと思います。そういった現状を、「権利侵害防止」のため、匿名性を徹底的に排除する方向で変革しようとすれば、多大な不便を感じる人はおそらく多いはずです。
権利侵害防止のためには、インターネットの利便性を大きく損なってもよい、そのためのコストは事業者が負担し、負担しきれなければ利用者に転嫁し、それも無理なら事業を断念すればよい、という議論を、公権力や法規制が後押しすることになれば(現実にそういう傾向が随所に見られることは改めて言うまでもないでしょう)、我々は、インターネットという非常に魅力ある手段を失いかねませんし、そうなった場合にほくそ笑むのは誰か、ということも念頭に置きつつ、議論を展開する必要があると感じます。