イラク派遣反対ビラ:「頑張ってきてよかった」3被告無罪

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20041217k0000m040108000c.html

 一方、判決を知った検察幹部は「集合ポストではなく、わざわざ玄関前まで入ってきてドアにある新聞受けにビラを入れているのに」とぶぜんとした表情。別の幹部も「一度追い返されたのにまた入ってきて配っている。ビラをまかれて不快な思いをした人がいるということは軽視できない」と不満を見せた。中には「起訴すべき事件だったのかという気がする」と指摘する検事もいた。

私は、一応、元公安部検事ですが、公安部が取り扱うような事件には、事実関係とか犯罪の適用といった点は比較的シンプルなものが多い一方で、こういった憲法上の権利が問題になるような性質の事件が少なくなく、「起訴価値」を慎重に見極める必要があります。
公安部検事の資質としては、どういう場合に住居侵入罪が成立するか、過去の判例はどうか、といったことを知っているのは当たり前のことで、こういった事件が生じた場合に、違法性に影響するような事情を的確に考慮できるように、日頃から見識を深めておく必要があります。
例えば、この事件の場合であれば、そういった日頃の勉強に立脚した上で、当時の自衛隊イラク派遣を巡る世論の状況、国会の動き、反対派の行動状況等について、徹底的に調査して、極めて多種多様なビラが配布されているような現状の中で、あえて本件が、「わざわざ玄関前まで入ってきてドアにある新聞受けにビラを入れているのに」「一度追い返されたのにまた入ってきて配っている。ビラをまかれて不快な思いをした人がいるということは軽視できない。」といったことで、裁判所が有罪にしてくれるような事件なのかどうかを、「起訴前に」慎重に考える必要があったでしょう。
小倉先生のブログで

http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/ef8a04a3c25f5dac4b0a49765b34fddc

公判担当検事は、被告人らを含む団体が新左翼と共闘関係を結んでいることを立証するために公安担当刑事を証人として申請し、却下されたとのことでしたので、このような公判担当検事のお馬鹿な訴訟活動が、裁判所をして無罪判決を下さざるを得ないところに追い込んだのではないかという気もします

と指摘されていますが、こういった拙劣な公判立会活動しかできないこと自体が、起訴前の検討が不十分であることを示していると思いますし、過去に公安畑で活躍し鬼籍に入った諸先輩は、この事件を知って、お墓の中で泣いていることでしょう。
現在の検察庁は、完全に「特捜部偏重」状態と言っても過言ではなく、こういった、起訴価値に疑問のある事件があった場合に、きちんと物事を見て、慎重に起訴価値を見極め、この事件のように問題があれば、関係各方面をきちんと説得、説明して起訴しない、という判断ができる検事がいない、という悲しい現実を、この事件は如実に物語っているのではないかと思います。