富山夫婦殺害:県警警部補が殺人告白文書送付 捜査協力要請に報道機関どう対応?

http://mainichi.jp/select/news/20130119mog00m040005000c.html

「匿名の情報提供であっても、『情報源の秘匿』の大原則がある。取材、報道目的で使われることを前提に報道機関に送られてきた資料を、捜査機関に簡単に提供するようなことがあれば、情報提供者からの信頼を失い、今後の取材活動においても支障をきたすからだ」
週刊文春1月17日号は「殺人警察官が本誌に送りつけた『犯行声明文』全文公開」との特集記事で、富山県警の任意での提出要請を拒否した理由を説明した。
日本新聞協会編集委員会は1969年、「見解」を出している。そこには「捜査当局や裁判所などの要求により、報道写真やフィルム、取材メモ等を証拠物件として提供することは、その後における報道、取材の自由に重大な制限を招くおそれがあるから、原則として避けるべきである」と記しており、文春編集部の考えとほぼ同じだ。ただ「ケース・バイ・ケースで処理されるべき性質のもの」ともしており、全面的に否定しているわけではない。

今回と同様、刑事事件で報道機関が保有する資料が証拠として押収されたケースは過去にもある。88年9月、リクルートコスモス社の社長室長が楢崎弥之助衆院議員に現金を渡そうとした場面を日本テレビが撮影し放映した。東京地検は未編集分を含めたビデオテープを同局から押収。また、90年には警視庁がTBSから暴力団組長らによる債権取り立ての脅迫シーンの未編集テープを押収した。両局とも表現の自由を保障する憲法21条を根拠に差し押さえ処分の取り消しを求めて最高裁まで争った。いずれも「適正迅速な捜査の遂行のためやむを得ない」と棄却されている。

おそらく、

1 報道機関が自ら動いて取材した情報か、情報取得の経緯に照らし取材源を秘匿する必要性がどの程度存在するか(取材源側に秘匿を期待する利益がどの程度存在しているか)
2 捜査当局が、その情報をどの程度必要とするか

といった観点で検討する必要があるのではないか、と思いますね。
報道機関としては、上記の1の点を慎重に考慮しつつ、任意で情報を捜査機関に提供すべきか、ということについて検討することになるでしょう。報道機関が簡単に、任意で情報を捜査機関に提供する、ということになれば、報道、取材に支障をきたす恐れがありますから、任意で出せるのは、取材源秘匿の必要性が高くなく、かつ、公益性が高い場合に限られるのではないか、と考えられます。どうしても、強制で差し押さえる、ということにならざるを得ない場合が多くなりがちでしょう。
捜査当局としては、2の観点で動くことになりますが、上記の記事でも紹介されている最高裁判例は、捜査の必要のみによる無制約な差押えは認めておらず、報道機関の取材活動への制約等の利益も衡量した上で、やむを得ない場合の差押えを認める、という基準を採用しており(ただ、結果的に捜査の必要が優先されがちではないか、という批判を受けてはいます)、差押えするかどうかを決するに当たっては、上記の1の点を慎重に考慮、検討する必要はあります。
記事に出ている程度の事情しかわかりませんが、出版社が情報を持っていることを知りながら、長期間にわたり強制捜査に踏み切らずにいた富山県警は、慎重すぎたように思われ、一方的に送りつけられてきた、といった経緯に照らすと、もっと早く差押えに踏み切って真相解明の資料にする、ということがあってもよかったのではないか、という印象を受けます。