<強制わいせつ>10歳の告訴能力、「幼い」理由に否定 「地獄だった、重い罰与えて」も届かず

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120314-00000000-maiall-soci

被害者が未成年の場合は法定代理人である親権者が告訴できるが、地検は一連の事件で母親の女も容疑者として捜査しており、告訴権者にはあたらないと判断。公訴を棄却された事件では「地獄だった。重い罰を与えて」と訴える次女の供述調書を告訴とみなしたうえ、祖母からの告訴状を受け起訴していた。
地裁は判決で、(1)被害の客観的経緯を認識している(2)被害感情がある(3)制裁の意味や仕組みを理解している−−を告訴が有効な条件とした。そのうえで「幼い年齢」や本人の正式な告訴状が作成されていない状況から、「告訴能力を有していたことには相当な疑問が残る」と指摘した。祖母の告訴状も、母が最終的に起訴されなかったことから、告訴権者は母であって祖母ではないとし、無効と判断した。次女を巡る別の事件では、母親を起訴していたため祖母の告訴状を有効とした。
これに対し、地検は本人の告訴状について「形式的な告訴状より、被害者の生の言葉の方がわかりやすい」とし、「次女の供述は具体的で処罰感情などもあるのに、地裁は本人への尋問もせず、告訴能力を実質的に検討していない」と反論する。

告訴というものは、犯罪事実を申告し犯人の処罰を求める意思表示ですから、その内容や意味を理解できる能力がないと告訴能力があるとは言えませんが、制度趣旨や告訴が持つ意味に照らし、それほど高度な能力が求められているとも考えられず、告訴した年少者の能力等を実質的に見るべきでしょうね。記事では、判決中で「本人の正式な告訴状が作成されていない」ことが理由になっていたと紹介されてますが、実際の捜査実務では、「告訴状」という表題の書類を捜査機関側が用意してそれに署名押印してもらうこともあり(それまでの事情聴取経過を踏まえて準備するもの)、また、告訴にあたっては告訴調書という、調書スタイルで記録を残す告訴も刑訴法上、認められているので、告訴状がないことを理由にすることには疑問を感じます。また、実質的に検討する上では、告訴人である年少者本人への尋問も必要と思われ、それをせずに告訴能力を否定、というのは、裁判所として審理を尽くしているとは言いにくいでしょう。
わからないのは、刑訴法232条で、

被害者の法定代理人が被疑者であるとき、被疑者の配偶者であるとき、又は被疑者の四親等内の血族若しくは三親等内の姻族であるときは、被害者の親族は、独立して告訴をすることができる。

とされ、本件の場合、母が被疑者である段階での、親族(祖母)の告訴があれば有効であるはずなのに、記事によると「祖母の告訴状も、母が最終的に起訴されなかったことから、告訴権者は母であって祖母ではないとし、無効と判断した」とされていることで、記事に現れていない特殊事情があったのかもしれませんが、よくわからない事件だな、という印象を受けます。
10歳程度、というのは、告訴能力があるかどうか微妙な年齢で、捜査実務では、念のため法定代理人の告訴もとっておき起訴する、という運用をやっているところですが、本件では、法定代理人が被疑者になっていたことから、告訴能力が真正面から問題になっていて、今後の捜査実務への影響、という意味でも、高裁の判断が注目されると思います。