事後強盗としての暴行について共謀等を認めなかった原判決を重大な事実誤認の疑いが顕著であるとして破棄して差し戻した事例

最高裁第一小法廷平成21年10月8日判決です(判例時報2098号160頁)。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100810151110.pdf

にあるように、事実関係については、窃盗行為後、逃走中に、被告人が、追跡してきたBに取り押さえられた状態になり、

被告人は,Aに声を掛けて助けを求め,Aは,これに応じてBと被告人のところに走り寄り,その右腕をBの首付近から左肩辺りに当て,そのままBの右側から後方に回り込んでその身体を引っ張り,Bを後方に倒した。Bは,なおも被告人の首を腕で押さえ付けていたため,被告人は前のめりになるように転倒した。

その後も,被告人は,逃れるためにBの両腕部,胸部,腹部等を押すなどし,Aは,しりもちをつくように転倒したBの後方から同人の右肩付近等を引っ張り,Bは,もみ合う中で後方に約1m引きずられた。その後,被告人を取り押さえていたBの腕が緩み,被告人の頭が抜け,被告人及びAが逃走した。

という経緯で、1審では事後強盗致傷罪(Bは上記暴行により負傷)が認定されていたものが、2審では、

Aによる暴行は客観的にみてBの反抗を抑圧するに足るものであったと認められるものの,被告人による暴行は客観的にみてBの反抗
を抑圧するに足るようなものであったとはいえないとした上で,被告人は,Aに助けを求め,Aがこれに呼応した時点で,Bに対して暴行に及ぶことについて意思を相通じたとは認められるものの,その暴行の程度について,事後強盗としてのBの反抗を抑圧するに足る程度の暴行を加えるに至ることまでも認識認容し,そのことについてAと意思を相通じたとは認められない

として、窃盗及び傷害の限度で有罪とされました。
最高裁は、2審の判断を認めず、

被告人は,Aに助けを求め,Aがこれに呼応した際,Bによって精一杯の力で取り押さえられ,身体を前後に動かしても逃れることができない状態にあったのであるから,Aが被告人を助け出すためには,AがBに対して上記取り押さえを排除するに足るだけの暴行を加える必要があったのであり,被告人及びAもそのことを認識していたものと推認することができる。したがって,被告人は,Aに助けを求め,Aがこれに呼応した時点において,Bに対して暴行を加えることについて意思を相通じたにとどまらず,Bの逮捕遂行
の意思を制圧するに足る程度,すなわちBの反抗を抑圧するに足る程度の暴行を加えることについても,これを認識認容しつつ,Aと意思を相通じたものと十分認め得るというべきである。

として破棄差戻としています(判例時報のコメントによると、その後、破棄差戻審で1審と同様の認定になり有罪となったとのことです)。
事前の共謀までは認められないものの、上記のような事実関係であれば、実務的には、事後強盗罪の現場共謀を認め被告人についても
同罪成立、とするのが通常と思われるのですが、2審の裁判官にとって、そういった認定に躊躇を覚えるようなものがあったのでしょうか。
特に先例として新たな判断が示されているわけではありませんが、事実認定上、参考になる事例という印象は受けました。