http://www.asahi.com/tech/apc/050217.html
奥村弁護士のブログ
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20050217/1108630682
経由で知りました。興味深い内容です。
被疑者が供述した経緯というものは、任意性はもちろん、信用性を判断する上でも、非常に重要ですから、検察官は、証言前に、証言する警察官とかなり綿密な打ち合わせ(「証人テスト」と言いますが)を行った上で、公判に臨んだはずです。
K捜査官はやりとりを振り返り、
「ファイル共有という精神を広めるのは私にも理解できたし、考え自体はいいこと、いいアイデアだと思った。だから金子被告がそういう言い方をしたのは、非常に印象的でした」
と証言している。
このあたりは、頭ごなしに被疑者扱いしていたわけではないし、供述を押しつけるような状況ではそもそもなかった、ということを裁判官に印象づけるための伏線でしょう。
ところがその後、金子被告は、K捜査官らが想像もしなかったことを、聴取の場で語り始めたという。つまり金子被告逮捕の際に捜査情報として報道された、
「著作権を侵害する行為を蔓延させて、著作権のあり方を変えるのがWinny開発の目的だった」
という論理を、このとき展開し始めたのだとK捜査官は証言する。K捜査官は驚いて京都府警に電話し、上司の警部らに相談した。
「こんなことを言い出したんですよ。どうしたらええんでしょうかねえ」
だがその場で結論は出ない。K捜査官は「こんな前例のない事件を現場で判断するのは無理」と考え、あくまで参考人聴取として金子被告の言い分をすべて聞き取り、京都に帰ったという。
上記のような「伏線」の上で、被疑者(その当時は参考人)の供述が、取調官にとっても意外な、驚くべきもので、自発的なものだった(だから高度の信用性がある)ということを言おうとしているのでしょう。
真偽はともかく、なかなかドラマティックな展開だと思います。
弁護側は、申述書に「Winnyによって著作権侵害を蔓延させた」という記載がある点について、
「これは金子被告の書いた言葉か?」
と質問した。これに対してK捜査官は、
「私がサンプルとして書いた文章です」
と回答。そして「それまでA捜査官が行っていた金子被告の聴取にずっと立ち会っていたので、その時に彼が使った言葉だったと思う」と説明した。
だが弁護側は、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)や映画著作権団体の供述調書に再三、「著作権侵害を蔓延させた」という言葉が出てくることから、この「蔓延」という用語はK捜査官の作文だったのではないかと追及したのである。
弁護人の狙いは正当でしょう。私なら、上記の取り調べの前までの、上記団体の関係者の供述調書や関係書類などの中での、「蔓延」という言葉の使用頻度を調べます。また、そもそも、被告人のボキャブラリーの中で、「蔓延」という言葉が存在するかどうかを、後日、被告人質問で聞いてみるのも一計でしょう。
K捜査官らは、金子被告宅でWinnyのソースコードなどを11月27日に押収し、参考人聴取した。そしてK捜査官に続いて証言台に立った同僚のT捜査官は、1カ月後の同年12月27日にはこの名目を「被疑者として」に切り替え、再度金子被告に対する聴取を行った、と証言した。
この段階ですでに同府警は金子被告逮捕に向かって動きはじめていた可能性が出てきた。
この経緯について、弁護人が公判でどこまで尋問しているかわかりませんが、当初は単なる参考人、協力者扱いであったものが、被疑者になり逮捕までして、という流れに、なぜ変わったのかは、この事件を見る上で避けては通れない非常に重要なポイントでしょう。
被疑者として立件する上で、何がポイントなのかが、当然検討されたはずです。単に著作権侵害の可能性があるソフトを開発しました、では検察庁は事件として「買って」くれないだろう、単なる故意ではなく積極的な「意欲」まであったことが必要だ、そこを供述で確実に押さえろ・・・といったことが綿密に検討された上で、下記のような取り調べへと入っていった可能性が高いと感じます(あくまで推測ですが)。
T捜査官によれば、この聴取の際の金子被告の発言には、
「自分が(Winnyを)開発したのは、確信犯的だった
私の狙っていた革命は成功した」
といった内容が含まれていたという。
「確信犯的」「革命」といった言葉が、どこからどのようにして出てきたかも、十分尋問すべきところでしょう。
一つの可能性ですが、被疑者は刑事責任について意識していない、取調官は十分意識している(単なる開発者というだけでは刑事責任を問いにくいという自覚がある)という状況の中で、
取:「これだけのソフトを開発するというのは、大変なことでしょう」(誉めちぎる)
被:「そうなんですよ」(良い気分になる)
取:「苦労話など聞かせてもらえませんか」(おだてて、しゃべらせる)
被:「いやー、大変でしたよ」(気分良くしゃべる)
取:「これだけのものを開発するというのは、一種の革命みたいなものですね」
被:「そうですね」(相手の狙いがわからず、良い気分で相づち)
取:「こういうソフトが出回ると著作権侵害も生じますよね?」(狙いをつけながら質問)
被:「そうですね」(理屈では、否定できない事態なので、認める)
取:「革命的な開発である以上、そういったことについては確信犯みたいなところがあったんでしょうか?」(確信犯ということについては、特段説明しない)
被:「そうかもしれませんね」(よくわからないまま、おだてに乗った状態で答える)
といったやりとりがあって、そういったやり取りを取調官が巧みに、捜査の狙いに沿ってストーリー化した上で、被疑者が、「なんか変だな?」と思いつつ、供述調書に署名押印したという可能性はあるでしょう(あくまで推測です)。
記事を読んで感じたのは、証言の真偽はよくわからないものの、裁判所によって信用されれば、判決の際、被疑者供述の任意性、信用性を肯定する理由が極めて書きやすく、非常に巧みに構成されている、ということです。
winny弁護団の真価が問われるときが到来した、ということでしょう。
追記:
「可能性」、「推測」という表現を念頭に置きつつ読んで下さい。