インパール作戦といえば、有名な
でも取り上げられている、ビルマ(現ミャンマー)で展開され多数の死傷者を出して失敗した有名な作戦ですが、興味を感じ通読してみました。併せて、「失敗の本質」のインパール作戦の項も再読してみました。
私なりに、著者の主張したいポイントをざっくりまとめてみると
1 インパール作戦は、元々、大本営の、より大きな作戦計画に端を発したものであり牟田口の独創ではないし、作戦の必要性、可能性中、少なくとも必要性については首肯できる面もあり勝利の可能性もあった
2 作戦発動については、大本営、南方軍、ビルマ方面軍の承認を得ており、第15軍司令官であった牟田口だけの責任には帰せられない
3 牟田口の資質は、世上、言われているような「鬼畜」といったものではなく、特に劣っていたものではなかった
4 第15軍麾下の師団長らは、積極性に欠け抗命するなど、統帥面で相当な問題があった
といったことではないかと思います(印象も含まれますから、著者の意図とは外れているとことがあるかもしれません)。
著者が書いていることに、特に積極的な異論はありませんでしたし、基本的には、「失敗の本質」と同様の問題点を的確に把握していると感じました。
ただ、1については、著者も指摘しているように、インパール作戦の補給はあまりにも杜撰すぎ、それが多数の犠牲者を出すことにつながっていて、作戦を立案、実施した第15軍司令官の責任はあまりにも重大でしょう。英軍が攻撃対象地に積極的に展開し航空勢力の支援も乏しい中で勝機が乏しかったことは客観的に明らかで、作戦の成功可能性の乏しさが様々に指摘される中、強行した牟田口の責任にはいささかも免罪の余地はないと私は思います。
2は確かにその通りですが、従来も、牟田口だけの責任に帰せられてきたわけではなく、「失敗の本質」でも、特にビルマ方面軍の河辺司令官の無責任な対応には大きな批判が加えられています。ここは、旧陸軍について様々に指摘されてきた、決定において誰が責任を持つのかよくわからない無責任体質が言えるでしょう。
3は、本書で、牟田口個人のプロフィールやエピソードが紹介され、初めて読むことがほとんどで、人間としてそれほど悪い人ではなかったようには思いましたが、インパール作戦中の、自らは後方でのうのうと過ごしつつ将兵を死地に追い込み撤退も許さない、正に鬼畜のような所業が免罪されるわけではないだろうと改めて感じるものがありました。作戦途中で、失敗が明らかになっていながら中止を命じるのが遅れたことで損害が拡大した、その責任も重大です。ただ、この点は牟田口だけの問題ではなく、日本陸軍全体の問題であったと言えるでしょう。
4は、確かに形式上はその通りですが、麾下の幹部からの意見にも耳を傾けない牟田口の資質にこそ問題があったと見るべきであり、ここは、私の見方は著者とは異なります。師団長が抗命の上、独断で撤退するという日本陸軍史上前代未聞のことがなぜ起きたのか、そこに目を向けないと、インパール作戦の本質に迫れないでしょう。
とはいえ、本書は、軍事専門家によるものだけに的確さが顕著であり、従来、過度に牟田口の責任を問いがちであったインパール作戦に関する著作に反省を迫るものであって、この分野の著作として貴重なものだと思います。